Blessing you(英米/R15)
Blessing you 03
ワシントンから車を飛ばして二時間。
市内を抜け小さな街に車を止め、そこから徒歩で三十分。
アメリカの中でも緑の匂いが強く、数多くの野生動物が暮らしている小さな森に
丸太小屋は現存している。
本来はもう少し規模の大きい森だったのだが、森林伐採が進み、アメリカが暮らしていた
頃よりも森は規模が縮小していた。
とはいえ、濃い緑の匂いは変わらず、飛び交う妖精たちの気配も薄くなっていない。
ここは具合の悪いイギリスでも唯一安心できるところだなと深呼吸をしながら思った。
木漏れ日が差し込む道なき道を迷いなく進み、あともう少しで丸太小屋が
見えるというところでフランスが足を止めた。
先を歩いていたイギリスが音が聞こえてこないことに気づき振り返る。
立ち止まったまま動かないフランスに眉根を寄せて睨んだ。
「何呆けてんだよクソ髭」
「違うって。ここはお前だけで行った方がいいんじゃないかなと思って」
「はあ?」
睨みつける視線を逸らさず、イギリスは腕を組む。
イギリスとフランスの中間にいたカナダは困ったようにイギリスとフランスを交互に見た。
「わかってないねー。お前はあの頃からぜんぜん成長してないけど、俺やカナダは
それはもう麗しく成長しちゃったわけ。そんな俺たちを見たらアメリカ
びっくりしちゃうでしょうが」
「んだとゴラァ。俺だって成長してるんだよ。テメェなんか
きったねぇ髭生やしただけじゃねーか」
「なーに言ってんの。坊ちゃんなんて成長するどころか縮んでいるじゃない」
「そんなに地獄が見たいのかクソ髭」
「待って下さいイギリスさん!僕もフランスさんの意見に賛成です!」
「良く言ったカナダ!やっぱり坊ちゃんの背は縮んでいるよね」
拳を固めたままカナダに視線を向けたイギリスの顔は驚きに満ちていた。
対照的に助けを得たフランスはニヨニヨと笑っていて、イギリスの苛立ちを煽る。
(ちくしょう。やっぱ一発殴んねぇと気が済まない)
固く握りしめた拳でフランスの鳩尾を抉ろうとしたまさにその瞬間、カナダは首を振って
言葉を続けた。
「そうじゃなくて!イギリスさんだけ行くことに賛成なんです」
「カナダ?」
「僕はあの頃のアメリカとあまり面識がありません。イギリスさんに会った直後なら
尚更です。でも、イギリスさんならアメリカはどんな姿だってわかります。
きっとイギリスさんがよぼよぼのお爺さんでもアメリカは見抜きますよ」
「あいつはあんなに小さい頃からイギリスに惚れていたからね。お前が『イギリス』である
限りわからないなんてことないだろうよ」
二人の言葉にイギリスは素直に頷くことが出来なかった。
どんな姿でもイギリスだとわかる。
そんな小説の中でしかありえないようなことを信じることはできない。
信じられない。
小さく呟いたイギリスは突然感じた痛みに呻き声を上げた。
ぎゅっ、と側頭部を締め付けられるような痛みが走る。
収まっていたはずの吐き気まで込み上げてきて、イギリスはたまらず口を覆った。
「イギリスさん!」
悲鳴のようなカナダの声。
背中に触れる温かい手。
ドクドクと急ぐ心臓がわずわらしい。
ちったあ静まれと毒づいて深く静かに息を吸って吐く。
背中を穏やかなリズムで撫でてくれるカナダの手が心地よい。
数分経ってようやく回復したイギリスは顔を上げた。
真っ先に視界に入るのはらしくなく心配げな表情を浮かべたフランス。
(こんな顔されたの何百年ぶりなんだか)
気分晴らしに一発蹴りでも入れておこうと思ったが、さすがに堪え
「わりい。もう平気だ」
と二人に向けて言葉を発した。
「イギリスさん、無理はしないでくださいね」
真っ直ぐな労わりの言葉にイギリスはああと頷く。
カナダは心配そうにイギリスを見つめていたがイギリスさんが大丈夫と言うならと
ほんの少しだけ笑って離れた。
「そうそう。ここで倒れられてもお兄さん運ばないからね」
「抜かせ髭。誰がテメェに運ばれるか」
ニヤニヤと笑うフランスの胸に軽く拳をあてる。
いつもは抉るように拳をのめり込ませるのだが、軽く当てた拳は服に皺を作る程度しか
フランスに衝撃を与えなかった。
習慣的にそのまま抉りたくなったが、イギリスはあっさりと拳を納め
ログハウスに向けて歩き出す。
「・・・行ってくる。日本から何か連絡があったらすぐに俺にも伝えてくれ」
「はい、わかりました」
「泣かせるなよイギリス」
ログハウスの扉の前で振り返らないまま、二人の言葉に了承の意を込めて手を振り
―――――木製のドアノブに手を掛け、ゆっくりと押し開けた。
作品名:Blessing you(英米/R15) 作家名:ぽんたろう