Blessing you(英米/R15)
今、この状態でも50もの州を抱えているのは負担だろうに、更に人が集まる中心地に
連れて行って濃厚な人の気を当てたらアメリカは耐えきれないだろう。
その点、イギリスの提案した別邸はアメリカが好んで暮らしている
ニューヨークの片隅にあり建築方式が英国式なので、今のアメリカには
馴染みやすいだろうと考えた。
二人の話を聞いていたカナダはイギリスの提案に頷き、ひとまずの説明と日本を別邸に
案内するためホワイトハウスに直接赴くことにした。
カナダがホワイトハウスに出向いている間、イギリスとフランスはアメリカの別邸に赴き
アメリカをどうやって戻すのか方法を探りつつ、アメリカに過度の負担がかかっていないか
様子を見るということで結論付けられた。
再び降ろされたアメリカがカナダと戯れているのを眺めつつ、イギリスとフランスは
軽い打ち合わせをしておくことにした。
「それより坊ちゃん。鍵はどうするのよ」
フランスのもっともな問いにイギリスは不敵な笑みを浮かべ胸を張る。
「英国紳士舐めんな。あの程度のセキュリティなんて俺の敵じゃねえよ」
「・・・英国紳士は泥棒の真似もするんだねえ」
「黙れ髭。これ以上、アメリカの前でしゃべるな」
「ひどっ。お兄さんの人権は無視!?」
しなを作りくねるフランスの鳩尾にイギリスは問答無用で拳をのめり込ませた。
どすっと重い音を立ててのめり込んだ拳はクリーンヒットとなり
たまらずフランスは地面に沈む。
「フランス!大丈夫」
フランスの倒れた音に気付いたアメリカはフランスの傍に駆け寄りしゃがみ込む。
その傍にイギリスも立ち、アメリカの視界の外でフランスを靴先で蹴りながら
笑顔だけはアメリカに向けた。
「平気だよアメリカ。こいつは地面とお友達だからな」
「そうなの?すごいねフランスは」
イギリスの言葉を疑う余地も無く信じたアメリカは無邪気にフランスを称える。
余計なこと言うんじゃねぇオーラを感じたフランスは心の中で号泣しながら
「うん。お兄さん友達なんだ・・・」とどこか虚しさを滲ませ返事を返した。
「・・・じゃ、じゃあ僕は行きますね」
どこか異様な雰囲気に身を竦ませつつカナダは切り出した。
まだ靴先でフランスをぐりぐり弄っていたイギリスが不気味なほど
爽やかな笑顔で顔を上げる。
「気をつけろよ。日本の案内は頼んだ」
「はい。任せて下さい」
乗ってきた車はイギリスさんが使って下さいとカナダは付け足した。
この小さなアメリカがアメリカ合衆国であることに気づく人はいないだろうけど
出来る限り人の目から遠ざけた方がいい。
この車の運転手は政府付きの人だからその点安全なはず。
もっともな意見に反論など無かった。
街の入り口まで一緒に向かい、カナダは車を手配しにイギリスたちは
待たせておいた車に乗り込む。
初めて見る車に大興奮するアメリカを落ち着かせながらイギリスは自分の体調が
驚くほど落ち着いていることに気づいた。
時折、あの日のことを思い出して吐き気が込み上げてくることがあるが
何も考えず、普段通りにしていれば倦怠感があるもののさほど悪くはない。
むしろこの時期にしてみればありえないといっていいほど調子がいい。
その理由にまで思考の手を伸ばしかけて止めた。
調子が良いならばそれでいいではないか。
余計なことなど考えなくて良い。
絡みつく思考を振り切ってイギリスは繋いでいた手にぎゅっと力を込めた。
手に力が入ったのを感じ取ったアメリカが「どうしたのイギリス?」と尋ねてくる。
投げられた問いには答えずイギリスは曖昧に微笑んだ。
その一連の動作を不気味なほど真剣にフランスが注視していたが
イギリスが気づくことはなく、車内はどこか気まずい雰囲気を漂わせながら
別宅へと走り続けた。
作品名:Blessing you(英米/R15) 作家名:ぽんたろう