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Blessing you(英米/R15)

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「大丈夫?イギリス」
「ああ」
蒼い瞳いっぱいに涙を貯め込んでいるアメリカに心配をかけることを嫌ったため
イギリスはわざと短い返事を返した。
だがそれはアメリカの不安を煽ったらしく、ひ、と短く息を呑んで
瞳からぽろぽろと宝石のような涙を零し始める。
「大丈夫だ。大丈夫だからアメリカ」
「だって、イギリス、すごい苦しそう・・・!」
「もう収まった。今は苦しくない」
「安心しろアメリカ。この坊ちゃんは殺しても死なないよ」
二人掛かりで慰められてようやくアメリカは涙を止めた。
濡れている頬を袖で拭うとそのまま頬を擦り寄せられる。
目を細めてアメリカの行動を見守っていたイギリスは今ならば言えるのではないかと
口を開き、祝福の言葉を口にしようとした。
「アメリカ。おめ・・・」
その先がどうしても言葉にならない。
喘ぐように口をはくはくと開閉するが、祝福の言葉は紡ぐことが出来ない。
喉に手を当ててぎゅっと締める。
息苦しさに涙が出ても言葉は出ない。
何て無力なんだろう。
どうして、愛する人の誇らしき日を祝福できないのだろう。
―――――否。本当はわかっている。
ずっと目を背けてきたけれど、イギリスは結局、あの雨の日のアメリカを
どうしたって許すことが出来ないのだ。
小さなアメリカといると気持ちが楽になる。
それは弟のアメリカを懐かしんでいるということもあるけど、何よりこのアメリカは
イギリスを裏切らない。
だから呼吸が出来る。微笑むことが出来る。甘やかすことが出来る。
好意を踏みにじられたり、銃を向けたりしない。
(俺だけのアメリカ)
「なら、そのままでもいいんじゃないの」
はっとして視線を上げるといつの間にか消えていたピクシーがふわふわと飛んでいた。
フランスとアメリカには見えないせいか宙を見つめているイギリスを
訝しむように見ている。
だがそれには構わずイギリスはピクシーに向けて口を開く。
「駄目だ。戻さないと国が―――――」
「だってイギリス、そのアメリカなら平気なんでしょ」
声を張り上げて告げられた台詞をとっさに否定することが出来なかった。
ピクシーの言うとおり、このアメリカの傍ならば平気だ。
ならば彼女の言葉の通り、アメリカを元に戻さなくても構わないのではないだろうか。
アメリカが小さいままでいることで混乱も起きるだろうが、そこはイギリスが
うまくフォローをしていけばいい。
そうすればアメリカはこのまま傍にいてくれるのだ。
ずっと、ずっと。どちらかの国が滅ぶまでは。
それも一つの選択なのかもしれない。
けれどイギリスは緩く首を振って、口唇を開いた。
「わるい。あいつは空気が読めなくて、無茶苦茶な提案ばかりして
 馬鹿で意地悪だけど、俺は、今のアメリカが傍にいて欲しいんだ」
「イギリス」
「ありがとうピクシー。俺が迷っていたから背中を押してくれたんだろ?」
ふわふわと飛んでいたピクシーはイギリスの肩に留まる。
そしてツンと顔を反対側に逸らしたが、それが答えだと言っているようなもので
思わず笑いを零してしまった。
「んもう。そういう風に意地悪く笑うイギリスは嫌いよ」
「ごめんな」
しばらくツンと横を向いていたピクシーだったが、やがて気を取り直し
ふわりと宙に浮き、はにかんだ後、少しだけ申し訳なさそうに言葉をつけ足した。
「言い忘れてたけど、明日が終わるまでに祝福を授けないと魔法が解けないの。
 それだけは忘れないで」
言うだけ言うとピクシーはすうっと風景に溶けいるように消えてしまった。
呆然と宙を見つめるイギリスの頭の中をピクシーの言葉がぐるぐると回る。
明日―――――7月4日が終わるまでに祝福をしないとアメリカは戻れなくなる。
イギリスは視線をアメリカに向けた。
アメリカはきょとんとイギリスを見つめている。
胸が苦しくなるくらい純粋な瞳に射抜かれるがそれでも視線を逸らさず
アメリカを見続ける。
見つめあう二人の間でフランスはタイミングを計っていたが
埒が明かないと気づき、二人の間に割って入るように声を上げた。
「・・・あのさあイギリス。宇宙との交信は終わったか?」
「宇宙との交信なんかしてねぇよばかぁ!!」
涙目で叫ぶイギリスにフランスはいやいやだってと手を振る。
「完璧危ない人だったよ。お兄さん、どうしようかって思ったぐらいだし」
「危なくなんかねえよ!ピクシーと話していたんだよ」
「・・・アメリカがこうして縮んでいる以上、ピクシーっているとは思うんだけど
 どうにも疑っちゃうのは見えてるのが坊ちゃんだけだからだろうなあ」
「煩いばかあ!髭引っこ抜くぞ」
「って言いながら、マジで引っこ抜くの止めてっ。タルン渓谷が崩壊しちゃう」
大英帝国時代を彷彿とさせるようなあくどい笑みを浮かべ髭をぶち抜かんと
いわんばかりに引っ張っていたイギリスだったが、その様子をじっとアメリカに
見られていることに気づき、慌てて手を離した。
勢いよく離されたフランスが地面に倒れ込むがイギリスは目もくれない。
あくどい笑みを瞬く間に対幼アメリカ用の笑顔に変え、待たせてごめんなと頭を撫でる。
「ううん。イギリス、本当に平気?」
「ああ、平気だ。そうだアメリカ。お腹すかないか?大したもんは作れないけど
 下に行けば食べられるもんはあるぞ」
「もう少し我慢すれば、カナダと日本がホットケーキ出来上がるって言っていたんだぞ」
「二人とも来たのか?」
「うん。だからイギリスを呼びに来たんだ」
「ということは結構待たせているな。・・・・おい、髭。寝っ転がってないで
 リビング行くぞ。カナダと日本待たせてるから急がねぇと」
アメリカに対する声と180度違うドスの利いた声を向けられてフランスは
そっと目元を拭った。
涙を流したわけではないが、心の涙が零れたような気がする。
「・・・俺は今、自分の健気さに涙しそうだよ」
「何か言ったか?」
「いいえー。お兄さんはカナダと日本に癒してもらうよ・・・」
「変な真似するんじゃねぇぞクソ髭」
胸倉を掴みそうな凶悪な表情で告げ、イギリスはアメリカを抱えて足早に
マスタールームを出て行った。
残されたフランスもぶつぶつ文句を言いながら立ち上がり、部屋を出る。
誰もいないなった部屋に小さな光が浮かび、ふわふわと飛んでいたがやがて溶け込む
ように消えマスタールームは元の静けさを取り戻した。
作品名:Blessing you(英米/R15) 作家名:ぽんたろう