Blessing you(英米/R15)
鳴り止まない雨の音。
絡みつく硝煙と血の匂い。
全てを凍らせる蒼い瞳。
「イギリス」
まだ大人になりきれない青年の声。
「たった今俺は君から」
ドクドクと嫌に心臓が騒ぐ。
濃密な雨の匂い。
遠く響く銃声と剣戟。
「独立する」
離れていく背。
伸ばしても届かない手。
全てが終わりを告げた雨のヨークタウン。
あのとき、何を一番嘆いていた?
恩を仇で返された、好意を踏みにじられた。
違う。
裏切られたことよりももっと辛かったこと。それは。
「あいつが、手の届かないところに離れていくことだ」
裏切られても、離れなければまだよかった。
裏切られたということに気を取られ過ぎて気づけなかった。
イギリスが何よりも恐れたこと。
それはアメリカが手の届かないところに行ってしまうことだ。
裏切られても、離れなければいつかは絆を結び直せる。
けれど、アメリカの裏切りは、独立はイギリスとの絆を断ちきり離れていくものだった。
だから許せなかった。
イギリスの手を離し、世界でたった一人の愛しい子が離れていくことが。
「・・・アメリカさんは約束をくれたとおっしゃっていましたね」
「ああ。あいつはくれた。あいつを抱いてもまだ不安がる俺に未来をくれた」
『俺はね、イギリス。キミと二度と離れる気はないんだ。何があろうと、そうだね
死が二人を分かつことがあろうと離れないることはないよ』
『好きだ。愛しているよイギリス。キミを二度と離したりするもんか』
―――――ようやく、この言葉の意味を理解したような気がした。
あのときすでにアメリカはわかっていたのだ。
イギリスがこの世で何を一番恐れているのかを。
だから、もう恐れなくていいように約束をした。
あの雨の日のように離れることはない。
死さえも二人を分かつ要因にならないのだと。
一か月前、しばらく会えなくなると言ったアメリカはイギリスの手首に印を刻んだ。
その印も離れないというアメリカの気持ちだった。
「なあ日本。俺はすぐに変われない。二百年以上もこうしてきたんだ。
あいつがもう離れることはないってわかっていても、正直怖い」
日本はイギリスの言葉を受けて考え込むように俯いた。
さすがに幻滅されたかと自嘲をイギリスが零したそのときゆっくりと日本は顔を上げる。
その顔はイギリスの予想に反して、幻滅の色は無く、穏やかな面持ちだった。
「では独立を祝うのではなく、誕生日を祝う、では駄目なのでしょうか?」
「誕生日・・・」
国の中には誕生日を定めている国がある。
それはその国にとって重要な日であることが多く、日本もまた建国の日を
自らの誕生日としている。
「今のアメリカが生まれた日と考えるってことか?」
「そうです。・・・その、結局は同じことなのかもしれませんが」
「いや、そう考えれば俺も少し気分が楽になった。恋人の誕生日を祝うと
思えばいいんだろ」
ようやく僅かながらも笑うことのできたイギリスは目を細めた。
日本も柔らかな笑みを浮かべ、紅茶を一口飲む。
「そういやお前・・・今日は言うじゃねぇか」
意地悪そうに笑うイギリスにさっと日本は顔を青ざめさせた。
「申し訳ありません!なんとお詫びをしたらいいのか・・・」
「違うって。お前、普段からそういうふうに言えばいいじゃねぇか。・・・あ、帰ってきた」
リンゴン、とベルを鳴らされてイギリスは玄関に向かう。
施錠しているドアを開けると向こう側には荷物を抱えた三人が立っていた。
作品名:Blessing you(英米/R15) 作家名:ぽんたろう