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Blessing you(英米/R15)

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そもそもの始まりは一本のコールだった。
緊急事態以外では鳴ることのないシークレットラインが鳴るほんの少し前。
イギリスは夢と現を彷徨っていた。
この時期のイギリスに安らかな眠りが訪れることはない。
夢も現もたった一つの場面がめちゃくちゃに壊していく。
鳴り止まない雨の音。
絡みつく硝煙と血の匂い。
全てを凍らせる蒼い瞳。
「イギリス」
まだ大人になりきれない青年の声。
「たった今俺は君から」
ドクドクと嫌に心臓が騒ぐ。
濃密な雨の匂い。
遠く響く銃声と剣戟。
「独立する」
(いやだいやだいやだいやだいやだあめりかあめりかあめりか!!!)
「ああ"―――――っ!!」
力の限り叫んでイギリスは限界まで目を見開いた。
心臓が爆発しそうなほど早く力強く脈打っている。
顔を覆った手の震えは止まらない。
ぼろぼろと勝手にあふれていく涙は枕に吸い込まれ、苦しさに呼吸が奪われていく。
色褪せることのない刻み込まれた記憶がイギリスを押し流していこうとしている。
その苦しみをぶつける先を探して視線は彷徨い―――――サイドテーブルのとある一点に止まった。
震える手を必死にサイドテーブルに伸ばして、写真立てを取る。
そしてそれを躊躇うことなく絨毯の敷かれていない剥きだしの床に叩きつけた。
ガシャン、と音を立てて硝子が飛び散る。
「クソッ・・・」
思い切り叩きつけたフォトフレームは運悪く表を向いてしまっていた。
大ぶりのガラス片が月の光を吸い込んできらりと光る。
キラキラと月の光を浴びて、色褪せた人物画がイギリスの目に飛び込んでくる。
人物画に描かれているのははにかむアメリカだ。
まだ英領イギリスであった頃に画家に命じて描かせた絵。
あのじっとしているのが苦手なアメリカがイギリスの為にじっと我慢して
モデルになってくれた貴重な絵だった。
独立戦争を機にアメリカに関するあらとあらゆるものを処分したがこの絵だけは
どうしても処分をすることが出来なかった。
「アメ・・・リ、カ・・・」
この時期に彼の名前を出すのは禁忌に等しい。
ひとたび呼んでしまえば、胃がひっくり返るように痛み、涙が止まらなくなる。
カビた雨の匂いがイギリスを包んで、肺に溜まっていく。
消えることのない澱みが濁りきった感情が心を満たしていく。
それでも呼ばずにはいられなかった。
アメリカはイギリスを苦しめる元凶であり、希望でもあった。
転がり落ちるようにイギリスはベットを滑り降り、這いつくばってフォトフレームに近づく。
普段ならば苦にも思わない距離が酷く辛い。
歩けば三十秒もかからない距離をイギリスは這いずって何倍もの時間をかけて
移動をした。
ようやく手を伸ばす距離までたどり着き、イギリスは身体を起こせないまま
必死に手を伸ばし指先が傷つくのにも構わずフォトフレームを手繰り寄せる。
愛おしい子。
絵を傷つけないように慎重に取り出し、指で輪郭をなぞる。
乾いた咳を何度も零しながらイギリスは微笑んだ。
最後にアメリカに会ったのは一カ月も前のことになる。
世界会議が終わった後に二人で休みを合わせて、ニューヨークで二晩を過ごしたのだ。
「今日こそは外に遊びに行くつもりだったんだぞ!!」
「怒るなって。仕方ねぇだろ。お前がねだるから」
「!!!朝から何て事を言うんだい!!」
シーツに包まれたアメリカがぽこぽこ怒るのをイギリスはひどく幸せな気持ちで
眺めていた。
そのときの幸せを思い出して少しだけ心が穏やかになる。
別れるとき、アメリカはしばらく忙しいから会えなくなると言っていた。
独立記念日を一カ月後に控えたこの時期にアメリカが忙しいことは
言われなくとも知っている。
恋人になる前からこの時期はアメリカに会わないようにしているので
アメリカが忙しいことはむしろ好都合と言えた。
けれど、それでも申し訳なさそうにしていたアメリカはイギリスにとあるものを授けてくれた。
左手首の内側。
時計でギリギリ隠れる位置。
「たまには俺もね」
そう言って晴れやかに笑ったアメリカはイギリスの左手首に鮮やかな朱の華を刻んだ。
今はもう薄れ、跡も残っていない。
しかしアメリカの授けてくれた加護は消えることなくそこに在り続けている。
(アメリカ)
心の中でそっと呼びかけた途端、数十年鳴らされることのなかったシークレットコールが
部屋に鳴り響いた。
「―――――!」
身体中を襲う痛みすら忘れて立ち上がったイギリスは隣の執務室に駆け込んだ。
机に備え付けてある電話をむしり取るように取り、シークレットナンバーを打ち込む。
繋がった相手は―――――アメリカ合衆国、ホワイトハウス。
「夜分遅くに申し訳ございません 。じつは―――――」
齎された内容に今度こそイギリスは息の根を止められそうになった。
自分がその内容になんて返事したかはわからない。
気づけば、立つことすら難しい体を引きずって、部下の懇願を振り切り
軍用機に乗り込んでいた。
「アメリカ・・・!」
祈るように、縋るように名を呼ぶ。
全身を苛む痛みに負けている場合では無かった。
作品名:Blessing you(英米/R15) 作家名:ぽんたろう