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Blessing you(英米/R15)

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マスタールームに入るとイギリスはいつも腰かけているロッキングチェアに
アメリカを抱きかかえたまま腰かけた。
しっかりとした作りのチェアはアメリカの体重が加わったところでびくともしない。
「アメリカ、好きだ」
「うん。俺も大好きなんだぞ」
幾度となく繰り返した言葉。
好き、大好き、愛している。
最後の言葉だけは素直になれず、なかなか言えなかった時期もあったけれど
今はきちんと想いを乗せて囁くことが出来る。
続けて祝福の言葉を紡ごうとしたイギリスの口唇にそっとアメリカの人差し指が
押し当てられた。
まるで言葉を封じ込めるような仕草にイギリスは目を瞬かせる。
「いいんだイギリス。もういいんだ」
「アメリカ?」
やけにはっきりとした口調はまるで元のアメリカのようだ。
イギリスを見上げるオーシャンブルー。
宿るのは理知的な光。
ああ、この瞳は。
「お前、もしかして・・・」
「キミがこの日を祝えないことは分かっているんだ」
諦めに満ちた声。
もう迷うことは無い。
今、イギリスの腕の中にいるのは幼いアメリカでは無い。
イギリスの恋人であるアメリカだ。
「いつから戻ったんだ?」
「はっきりとはわからないけど、昼間に庭に遊びに行ったときには
 もう戻っていたんだぞ」
すり、と頬をすり寄せたアメリカは恥ずかしそうに言う。
アメリカの台詞から察するに昼間からの幼アメリカは彼の演じたものだったのだろう。
確立した自我を持つアメリカにとっては相当恥ずかしいことだろうとイギリスは思った。
「そうか。・・・けどお前、俺が祝わなきゃ元に戻れないんだ」
「たとえそうだとしても俺はこれ以上キミの苦しむ姿を見たくない」
きっぱりとアメリカは言いきった。
その言葉にも口調にも迷いは無い。
だが、イギリスとて簡単に引き下がれることではない。
噛みつくようにアメリカに反論した。
「元に戻らなかったから国だって困るだろうが!今のお前じゃ、アメリカ合衆国は
 大きすぎて支えられない」
「俺はヒーローだから何とかしてみせるよ。だから」
「馬鹿野郎!お前だけの問題じゃないんだ!国民に影響が出るのかもしれないんだぞ!!」
思わず怒鳴ってしまったがアメリカはたじろがない。
逆にキッとイギリスを睨みつけ、口を開く。
「俺はこれ以上、俺のせいでキミが傷つくところなんて見たくないんだ!
 俺の独立した日をキミに祝えなんて無茶苦茶だよ。
 ・・・・・・それに、キミ、こんなにボロボロじゃないか」
肩をしゅんと落としてアメリカはイギリスの細くなった腕をなぞる。
その様子があまりにも胸を締め付けて、切なくてイギリスはたまらずアメリカを抱きしめた。
「確かにこの日はお前が・・・独立した日だ。そんな日を祝えねぇよ」
腕の中でびくんとアメリカの身体が震える。
「けどな、日本に言われたんだ。この日を独立記念日として祝うのではなくて
 お前の誕生日として祝ったらどうかって。良い提案だと思ったよ。
 俺も恋人の誕生日なら祝える」
「そんなの別に、今日じゃなくてもいいじゃないか。ねえイギリス。もう頑張らないでくれよ」
アメリカらしくない台詞はイギリスの胸を抉った。
アメリカにらしくない台詞を吐かせるほど心配をかけている。
それがイギリスにはとても辛く、同時に幸せでもあった。
「ここで頑張らなきゃ、いつ頑張るんだよ」
囁いて、そっとアメリカの身体を離す。
晴れ渡る空を切り取ったような瞳に己の情けない顔が映る。
意識して顔を引き締めて、イギリスは口端を緩く持ち上げた。
アメリカ。
音になるかどうか瀬戸際の声が空気を震わせる。
「俺を愛してくれてありがとう。俺もお前を愛している」
息を大きく吸った。
胸がドキドキと音を立てている。
不思議と吐き気や頭痛はない。
まだ間に合うだろうか。
0時までまだ時間はある。
どうか、魔法よ。解けてくれ。
「お誕生日おめでとう。アメリカ合衆国、いや、アメリカ。お前に祝福がありますように」
ありったけの愛しさを込めて、イギリスはアメリカに囁いた。
『Happy Independence Day』とはおそらく一生言えないだろう。
けれども『Happy birthday』なら言える。
想いを込めてアメリカの小さな口唇に己の口唇を重ねる。
薔薇の花弁のように柔らかい口唇。
触れたのは一瞬の出来事ですぐにイギリスは口唇を離す。
顔中を真っ赤に染めたアメリカが何事か言う前にポンと栓の抜けたような音が響き
目を見張るイギリスの前でアメリカはどんどん大きくなっていく。
元に戻り始めてから十秒も経たないうちにアメリカは元の姿を取り戻し
ピクシーの掛けた魔法は無事解かれた。
「・・・・・・馬鹿じゃないのかい。キミ」
イギリスが我を取り戻すより先に己を取り戻したアメリカが呆れた口調で言う。
何でだよと眉根を寄せてイギリスが問えば、だってキミは幼い俺の方が好きなんだろと
どこか拗ねたような口調で漏らした。
「ばぁか。俺を変態にするつもりかよ」
こつんとアメリカの額に己の額をぶつけてイギリスは意地悪く笑う。
だって、と口をもごもごと動かすアメリカにイギリスは優しく告げた。
「お前の小さい頃はたしかに特別だ。あの頃に戻りたいって気持ちがあるのも認める。
 けど、俺が愛しているのは今ここに居るアメリカだ。俺の腕の中に居る
 アメリカが好きなんだよ」
「〜〜〜〜馬鹿イギリス」
「馬鹿とは何だ。馬鹿とは」
せっかくの告白を馬鹿とけなされ鼻白んだイギリスだったが、アメリカが顔と言わず
耳まで真っ赤に染めていることを発見し、ニヤリとあくどい笑みを浮かべた。
「なあアメリカ。朝までここには誰も来ないんだ」
息がかかるほど近くからの誘いにアメリカは目元を赤く染める。
「っ、やだよ。というか、日本やカナダに元に戻ったって言わないと・・・!」
「いいじゃないか。なあ」
アメリカ。
直接耳に吹き込むとアメリカはふるりと身体を震わせ、真っ赤な顔で睨みつけてくる。
あくどい笑みをキープしたままイギリスはシャツの隙間から手を侵入させた。
それをシャツの上から阻止して、アメリカは妥協案を出した。
「せめて、ベッドに行こうよ」
「わかった。じゃあ行こう」
そして二人は口付けを交わし、一カ月ぶりの夜を二人きりで過ごした。
作品名:Blessing you(英米/R15) 作家名:ぽんたろう