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Blessing you(英米/R15)

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Blessing you 02


「イギリスさん!!」
イギリスとフランスがホワイトハウスに到着し、通された先の執務室で
出迎えてくれたのはカナダだった。
相変わらず白クマを抱きかかえ、ふわりとした笑みを浮かべているが
疲れは隠せきれていない。
大丈夫かカナダと声をかけるイギリスにカナダは首を横に振った。
「僕よりもイギリスさんの方が酷い顔をしています」
「だよなあ。顔だけはまあまあなのにこんなに隈がくっきり」
「触るんじゃねぇ髭」
目の下をつつつとなぞった指を叩き落としてイギリスは凄んだ。
汚物を見るような眼にフランスは「お兄さん泣いちゃう」と演技を見せたが
まるっと無視してイギリスはカナダに視線を戻した。
「アメリカは?」
「まだ、何も。どこに行っちゃったんだろう。僕の家から帰るときは普通に笑ってて
 すごく元気だったんです。だからアメリカはきっと」
「ああ。無事に決まっている。お前にこんなに心配をかけて。見つかったら
文句を言わなきゃな」
「ええ、たくさん言ってやります。あ、そうだ、イギリスさん。
今日のところは休んで下さい」
長時間のフライトで疲れていますよね。何かあったらすぐに伝えるので
隣の仮眠室で休んで下さい、とカナダは畳みかけるように付け加えた。
「いや、大丈夫だ」
カナダの言葉にイギリスは首を振る。
身体はもはや限界を超え、立っているのが不思議なほどボロボロであったが
アメリカの行方が知れない以上、イギリスだけ休むわけにはいかなかった。
アメリカがどこかで苦しんで助けを求めているかもしれない。
愛し子が苦しんでいるというのに自分は何もできない。
できないどころか、不調に喘ぎ、無力さを噛みしめることしかイギリスには残されていない。
ならばせめて起きてアメリカの無事を祈りたかった。
自分はどうなってもいい。
この苦しみに殺されたって良い。
だからどうかアメリカだけは助けてほしい。
イギリスの意思の硬さを感じ取ったカナダは言葉を選びかねて言い淀んだ。
けれども意を決して口を開く。
「・・・アメリカがここに居たら、素直じゃない言い方かもしれないけど
 僕と同じことを言うはずです」
「カナダ・・・」
掠れた声をイギリスは上げた。
そう、なのかもしれない。
アメリカはイギリスに対して意地悪な言い方をするし、とびきり辛辣な言葉を向ける。
付き合ってだいぶ時間の経った現在ですら、アメリカの物言いには腹が立つことが多い。
だがアメリカは昔からとても優しい子だった。
独立の際にその優しさは捨ててしまったかと思ったけれど、イギリスと付き合い
始めてからは、昔の優しいアメリカを彷彿とさせるような優しさを
イギリスに向けてくれることがあった。
そのことを知っているからイギリスはカナダの言葉を否定できず、頷いてしまいそうになる。
それでも、休むことに抵抗がある。
こうしている今もアメリカは苦しんでいるかと思うと胸がぎゅっと締めあげられた。
「それに明日の朝には日本さんもこちらに来てくれます」
「日本が?」
驚きにイギリスは目をちょっと見開く。
「はい。事情を聞いてからすぐにこちらに向かってくれて、今は空の上です」
改めてカナダはにこりと微笑んだ。
日本が、来る。
その事実は頑なだったイギリスの心を確かに和らげた。
「眠れないかもしれませんけど、横になるだけでも楽になるはずです。
 お願いです、イギリスさん」
必死な顔でカナダはイギリスに縋った。
ああ、駄目だ。
イギリスは胸中で息をつく。
「・・・お前にそんな顔されたら敵わないよカナダ」
苦笑してイギリスはカナダの頭をかき混ぜた。
ふわふわの金髪が指先に心地よい。
その柔らかさを堪能しているとによによと笑ったフランスが親しげに
イギリスの肩に手を置いた。
「安心しろ坊ちゃん。日本が着いたら俺が優しいベーゼで起こしてやるよ」
「代わりにお前が永遠の眠りに就くわけだな」
「え、こわっ。というか何でそんなにイイ笑顔なわけ?」
「一発で仕留めてやるよフランス」
「カナダ、助けて!」
「・・・今のはフランスさんが悪いと思いますよ」
と窘めながらもカナダはさりげなくフランスとイギリスの間に割って入った。
カナダ、優しい!と感激の声を上げるフランスをこの上ない冷たい視線で見据え
イギリスはため息をつく。
それと同時に視界がブレて、いよいよ休まなければいけないのだとイギリスに知らしめた。
「部屋は隣の仮眠室を使って下さい。何かあったらすぐに連絡します」
「ああ。頼んだ。カナダも無理するなよ」
「はい。・・・きちんと休んで下さいね」
柔らかい微笑に見送られイギリスは隣の仮眠室に移動する。
扉を後ろ手で閉めて、空気を遮断すると同時に目の前が暗くなるような
強い眩暈が襲いかかった。
思わずテーブルに手をついて、額を手で覆う。
津波のように押し寄せてくる痛みは止まることを知らない。
それでも何とか身体を引きずるようにベッドに投げ込むとどっと疲れが押し寄せてきた。
頭の奥だけではなく、芯からぐらぐらする。
ここ数十年でまごうことなき一番最悪の状態だった。
シーツにもぐり込む気力も無く、寝がえりを打つこともできない。
とめどなく溢れる涙はシーツに染み込み、生温かく濡れた布地が不快感を増す。
指先すら動かすのが億劫だったが何とか靴だけは脱ぎ捨てベッドの上で丸まる。
明日の朝には日本が来る。
ならば情けない姿など見せられない。
眠れなくともカナダの言うとおり、身体だけでも休ませなければ。
「―――――?」
少しでも身体の震えを落ち着かせようと大きく息を吸って、イギリスは甘い匂いが
シーツに染み込んでいることに気づいた。
すん、と鼻を鳴らして嗅ぐとキャンディのような匂いだとわかる。
ホワイトハウスの、この仮眠室で、シーツに染みついた甘いキャンディの香り。
考えるまでも無い。
すん、と鼻を鳴らして匂いを嗅ぐとハンバーガーの匂いまで染みついている。
「馬鹿・・・ベッドで物、食べるなっつうの・・・」
何度彼に向けたかわからない台詞をイギリスはベッドに囁く。
返事が無いことは知っていたけれど囁かずにはいられなかった。
まだ頭はぐらぐらするし、喉は胃液で焼けるように痛い。
けれど、ここにはアメリカの痕跡がある。
(腕の中に居れば最高なんだけどな)
そのためにも一刻も早くアメリカを見つけ出さないといけない。
目を伏せても眠りにつけなかったイギリスだったが、やがて引き込まれるように眠りに就き
夢の世界へと意識を飛ばした。
作品名:Blessing you(英米/R15) 作家名:ぽんたろう