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Blessing you(英米/R15)

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最初は夢だとはわからなかった。
アメリカが幼い頃、まだイギリスの膝ぐらいの大きさだった頃に住んでいた丸太小屋。
備え付けのベッドに窮屈そうに眠っているアメリカを発見して、身体を揺すりながら
大声でその名を叫んだ。
だがアメリカは起きない。
それどころか身体を揺すったというのにアメリカの身体は微動だにしない。
どうしたものかと思案するイギリスの顔のちょうど真横。
アメリカの胸のあたりにふわりと柔らかい光が舞い降りた。
「ピクシー・・・?」
本国にいる彼女とは面持ちが異なる小さな少女。
柔らかな金糸にラベンダーブルーのドレス。
ぱっちりした瞳がひどく愛らしい。
彼女はアメリカに住むピクシーだ。
二百数十年前、まだアメリカが保護下にであったときに一度だけ会ったことがある。
「ん、ううん・・・」
感じるはずのない重みを感じたのか穏やかに眠っていたアメリカの眉根が寄せられる。
思わず息を詰めて見守ると、ぎゅっと力を込めて閉じていた瞼がゆるゆると持ちあがった。
「起きたのねアメリカ」
身を起こし、ぼんやりと飛び上がったピクシーのいる辺りの空間を見つめているアメリカに
ピクシーは親しげに声をかける。
聞こえるわけがないだろうとイギリスは呟いた。
アメリカは妖精を信じていないし、幻覚だと思っている。
それはアメリカが英領アメリカだった頃から変わらないことで、今更ピクシーが見える
ようになるとは思えない。
「・・・夢ってすごいな。イギリスお得意の幻覚まで見えてしまうなんて」
「は・・・?」
アメリカの言葉の意味を計りかねてイギリスは間抜けな声を漏らした。
見えてしまうってお前。
一度停止してしまったイギリスの頭が回転し始める前に腰に手を当てたピクシーは
柔らかな頬を真っ赤に染めてアメリカを睨みつけた。
「イギリスが大好きなアメリカだからお祝いしようと思ったのに夢だなんて失礼しちゃうわ!
 そんな悪い子には魔法をかけちゃうんだから!」
「あはは。冗談までイギリスにそっくりだよ」
馬鹿、アメリカよせ!!
真っ青なイギリスの叫び声は音にすらならない。
DDDと笑っているアメリカはピクシーの魔法の怖さを知らない。
悪戯ではなく彼女たちが魔法とはっきり定義付けをしてかける呪術は
威力がとんでもなく強い。
しかも、普段見えないアメリカに姿を見せるほど強い力を持っているピクシーの魔法だ。
存在を消すぐらいなんてことはない。
ぐるぐるとイギリスの中で最悪の想定が駆け巡る。
おそらくアメリカはピクシーの怒りに触れ、その魔法で存在を消されたのだ。
だから連絡はないし、GPSにも反応が無い。
「んもう!ぜったい許さないんだから!!」
ふるふると羽を震わせたピクシーはひらりひらりとアメリカの周りを飛んだ。
ピクシーが舞うたびに金色の鱗粉がアメリカに降り注ぐ。
すると淡い光がアメリカを包み、その姿をどんどん小さくしていった。
ものの三十秒も経たないうちにアメリカはイギリスと出会った頃ほどの
身長にまで縮んでしまう。
服装もその当時よく着ていた白のワンピースに変わっていた。
小さくなったアメリカは辺りを見渡し、うるっと目に涙を滲ませる。
ピクシーの姿はもう見えない。
止めることのできなかったイギリスはがくりと膝をつく。
幸いにも存在を消されることはなかったものの、アメリカは魔法によって
小さくされてしまった。
こんなにも近くにいたのに何もすることが出来なかった。
イギリスを無力感が苛む。
項垂れたまま顔を上げることもできないイギリスの耳に心細そうな声が届いた。
「・・・いぎ、りちゅ」
「アメリカ?」
「寂しいよ。いぎりちゅ、寂しいよ」
ぺたりと床に座り込んだアメリカは心を鷲掴みにするほど寂寥感に満ちた声を上げる。
真珠のような涙がぽろぽろ零れ落ち、床に染みいる。
ずりずりとアメリカににじり寄ったイギリスは触ることが出来ないのを承知で
アメリカを抱きしめ、その頭を撫でた。
「アメリカ、アメリカ。泣かないでくれ。今の俺では涙を拭いてやることもできないんだ」
やはりイギリスの温もりも声もアメリカには届かなかった。
小さな手で目元を拭いながらアメリカは泣き続ける。
今すぐにアメリカの元へ飛んでいきたいと思った。
こんなに小さいのにアメリカは嗚咽を堪えて泣いている。
時折漏れるのはいぎりちゅと名前を呼ぶ声。
イギリスの知らないところでアメリカはこうして泣いていたのだろう。
以前、イギリスはアメリカに寂しいのはわかるよと言ったことがある。
帰っちゃいやだとごねるアメリカを説得するために告げた言葉だ。
(けど、俺は本当にアメリカの孤独をわかっていたのだろうか)
泣いているアメリカの目は涙で溶けてしまいそうだ。
早く目覚めろ。
アメリカを抱きしめ、髪にキスを落としながらイギリスは祈った。
覚めたらすぐに抱きしめにいきたい。
きっとアメリカはこの丸太小屋で一人で泣いている。
ならばイギリスがアメリカを一人にできるわけがない。
アメリカの目元だけといわず顔中が真っ赤になるほど泣きじゃくった頃
イギリスは身体が引き戻されるような感覚を感じた。
きっと目が覚めるのだろう。
「アメリカ、待ってろよ。すぐに迎えに行くからな」
聞こえなくともイギリスは囁いて、引き戻される感覚に身を任せた。
イギリスが丸太小屋に着いたとき、アメリカが泣いていなければ良いと思った。
作品名:Blessing you(英米/R15) 作家名:ぽんたろう