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みとなんこ@紺
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recollection

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何か、
温かいものが額にそっと触れて、すぐに離れていった…ような気がした。
それが気になって、眠りの縁からゆるゆると意識を戻す。

うっすらと目を開けると、もう一人の遊戯が僅かに笑みを浮かべながら自分を見下ろしていた。
時々、ほんの微かに彼が浮かべるその柔らかい表情がすごく好きで、遊戯はつられたように微笑んだ。

「眠いんだろう? 寝てていいぜ。朝になったら起こしてやるから」

「・・・ん」

穏やかな声が耳に心地良い。
目を閉ざすように触れてくる手。
さっき触れていったのはコレだったのか。・・・それも少し違う気がする。
だが温かいその掌が気持ちよくて、離してほしくなくて、遊戯は上からそっと手を重ねた。
少し戸惑うような気配がしたがすぐに一つ息を付くと、もう一人の遊戯は何も言わずに手をそのままに隣に腰を下ろしてくれた。

「――――杏子から話を聞いた」

ピク、と小さく身じろぎしたのに気付かない振りをして、もう一人の遊戯は続けた。

「さっき電話があった。…帰り道、途中から何か様子がおかしかったから気になって、ってさ」

今は寝てるけど、帰ってからは普通だった、って伝えておいたけど構わなかったか? と続ける声に、小さく頷き返す。
ほとんど声にならない声でアリガトウ、と告げると、宥めるように指先で額を撫でられた。
あれだけ、動揺してたのが何だったのか、と自分でおかしくなるほど、今は何かが凪いでる気がする。

「・・・ちょっとね、びっくりしたんだ」

今なら、言える気がした。



きっかけは、ほんの些細なこと。

杏子が機種変した、最新の携帯の話。
それから電話とかを通した誰かの声とか、留守電で登録した自分の声を聞いたら、自分の耳が直に拾う自分の声と何か違う感じがする、という話になって。

『…そういえば、もう一人の遊戯も電話の声は何か雰囲気変わるよね』

途中、ぽつりと洩らした杏子の呟きを拾った城之内が、あー確かに、と同意する。

『何だろ、何かいつもより柔らかい感じがするな』

ふと見ると皆一応に何処か納得顔で。
・・・そう言えば、早々と自分が寝てしまった日、時々伝言を伝えてくれる時があった、けど。
聞いてみれば、皆一度は電話で話した事があるらしい。

それを聞いた瞬間、自分はヘンな顔をしなかったか、それが心配だった。
たぶん、その時に思ってしまった事に気を取られて、あまりうまく笑えなかったような気がする。
それから先のやり取りは、実はあまり覚えていない。



「・・・あのね、」

その時によぎった自分自身の思いに、・・・段々、欲張りになってきてるんじゃないか、って、自分で少し怖くなった。
ボクだけ、いつでもキミと直接話が出来る。
こうして心の部屋で触れ合う事も。
だけど、
ボクだけ、キミからの電話ってもらうことが出来ないんだ、って。
だけど皆は、それが出来て。

「…羨ましい、って思った」

さすがに全てを言葉にのせる事は出来なかったけれど、
真っ直ぐに彼を見て、伝える事も出来なかったけれど。
でも、すべてを告げなくてもきっと、もう一人の遊戯はその意味を拾ってくれる。
やっぱり呆れられるだろうか。多分、今すごく情けない顔をしてる。顔を見られたくなくて、そして半身の表情を見ることも出来なくて、ぎゅ、と重ねた手に力を込めた。



「…相棒」

近くから落とされた声はさっきと調子も変わらず、穏やかなままだった。
それに少し安心して、小さく返事を返す。

「・・・うん」

「相棒が、何て返して欲しいのかオレには判らない。だが…この場合…嬉しい、と思うオレは変だと思うか?」

「・・・え・・・?」

あまりにもいつもの調子と同じだったのに、そう途切れた声は。

「…起きたら机の上を見てくれ」

聞いているだけで温かくなるような、そんな何かを含んで
ひどく、ストン、と自分の中に落ちてきた。

「――――うん」





作品名:recollection 作家名:みとなんこ@紺