Can I.....?
「それに比べたら、シズちゃんは化け物のくせに、やたら人間になりたがるよねえ。いい加減、自分が化け物だって認めちゃえばいっそのこと楽かもしれないのに、いつまでたっても自分から苦しんでるんだから。・・・だから、シズちゃんへの興味はなくならないんだよね!」
その化け物の姿は、子供服を着ようとしている大人のようで俺にとっては滑稽以外の何物でもなく、思わず子供服を着ようとしているシズちゃんを頭の中で思い描いてしまってみぞおちあたりから笑いがこみ上げてくる。
新羅はそれを呆れたように見ているけれども、これもいつものことだ。
「臨也は、本当、静雄に対して執着するよねぇ。」
「あは、だって面白いじゃない!あの化け物がどういう風な行動に出るのかは、興味があるよ。・・・・まぁ、化け物じゃないシズちゃんには一切興味ないんだけどね。」
そう、シズちゃんは化け物であるからシズちゃんなのであって、普通の人間になってしまえば、それはもうシズちゃんではないのだ。そんな普通の人間になってしまったシズちゃんには興味はない。あんなのが人間になられても嫌だ。
「・・・・・・へぇ。そう。」
「うん。」
大した感動もなく言った新羅に対して、俺は化け物で在り続けることをもがいて苦しんでいるシズちゃんの様子を想像して、それだけでどことなく楽しくなった。治療のためにとおいてある丸椅子の上をくるくるとまわしながら、また、化け物であることを苦悩し、苦しむシズちゃんを思って楽しくなる。
「臨也は、静雄のことは大嫌いなんだよね?」
「それこそ、今更のことじゃないの?」
答えながらもくるくる、くるくる、と椅子で回りながら新羅の問いに問いで返す。こういうやりとりは、嫌いな人も多いだろうけど、新羅は特に気を悪くするわけでもない。
「うん、そうだよね。」
「・・・なに、その奥歯に物のひっかかったような言い方。新羅らしくないんじゃない?」
「うーん・・・俺もよくわからないんだけど、何かひっかかった気がしたんだけどね・・・」
闇医者はへらっと分からなかった。と笑って見せる。その笑いに嘘はないようで、自分でもよくわからない感情の処理の仕方を困っている様子だった。
「よし、治療もしてもらったことだし、俺はそろそろ帰ることにするよ。」
「じゃあ、これ、一応シップね。さっきも言ったけど、ちゃんと治るまで無理はしないこと。それと、治っても無理はしないこと。」
「うん、分かってるよ。じゃあね。」
薬を受け取ってから、治療代をぽん、とおいて新羅の仕事部屋を出る。新羅は、俺に対しては玄関まで見送ることはしない。たまに、運び屋が見送るものの、得てして俺がこの部屋から出る時はひとりだ。
エレベータは音も静かに上がってくると、控えめに到着を知らせる音を鳴らす。振動も音も少ないのは、ここがやはり高級マンションと呼ばれる類のものであるからに変わりはない。乗った時と同じように、重力がさしてかかることもなく一階に到着すると再び控えめなあの音が鳴ってすっとドアが開く。エントランスを抜けて外へ出ると、すでに夜の色が周囲を包みこんでいた。
街灯は広く照らすでもなく、狭く照らすでもなく、怠惰な様子で明かりを提供している。
そこから細い道をいくつか抜けて広い通りへ出ると、時間帯が時間帯なせいか、帰宅のラッシュでたくさんの人が行き交う。
あぁ、あそこでは父と娘が丁度顔を合わせたようで、一瞬ぎこちない表情の後に、ふっと笑って一緒に歩き出した。あの父娘の間にも、いろんな矛盾を含んだ楽しい出来事が起きたのだろう。そして、これからも起きるのだろう。そのたびに、父だから、娘だから、という葛藤を抱えつつ、互いの関係を形成しながら生きていくに違いない!
なんて楽しい!
なんて愛しい!
そして、なんて滑稽な!
その事を考えただけで、俺は楽しくなってくる。だから、人類は面白い!だから人類は愛しい!!
ちらっと、脳裏をなぜか金髪とサングラスがよぎった。いつも、俺を見る時は瞳に憎悪を宿し、今にも身体が破裂しそうなくらいに感情を膨らませた化け物が、思考の端を捕えた。それと同時に、いっきに不愉快な感情がこみあげてくる。
化け物が・・・どうして、こう、楽しい時間をことごとく邪魔するのかは分からないけど、俺の脳内まで邪魔しにくるなんていい身分だよね。化け物の癖に。
だから、化け物は嫌いなんだ。
だから、化け物は嫌なんだ。
だから、シズちゃんは嫌いなんだ。
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作品名:Can I.....? 作家名:深山柊羽