Can I.....?
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がちゃ、とドアノブを回して、玄関に俺以外の。つまり、波江の靴があるのを確認する。どうやら晩御飯を作っている途中のようで、いい香りが玄関まで漂ってきている。
うさぎを模したスリッパを履いてダイニングキッチンへと向かうと、さすがに波江がこちらへと目をよこした。いつも玄関でただいまを言おうが言うまいが、彼女には関係なくて、どうせ返事は返ってはこない。まぁ、どうせ返ってこないって分かっているのなら、声をかける必要もないわけだ。
「もうちょっと待っててもらえる?」
「うん、全然大丈夫。」
言って、キッチンの入り口でなんとはなしに波江が料理するのを見る。波江は確かに仕事もできるけれども、料理の腕前も結構いい方だ。弟にあれほど執着しなければ、きっととっくの昔に結婚していたかもしれない。
いや。やっぱり波江は波江だからそれは無理かな・・・
どんなに弟に執着してなかったとしても、波江は波江であって、だからこそ変わらない性質というものがある。顔立ちもスタイルもいいけれども、きっとそういうところに対して、いわゆる一般の男なら引いてしまうだろう。
そうだとしたら、一般的ではない男なら、どうだろうか。そう思った瞬間、でてきた金髪頭の端正な顔立ちに知らず眉間にしわが寄る。波江はちらっとそれを見たけれども、すぐに関心のない、という表情に変わった。
まぁ、確かにシズちゃんは一般的じゃないどころか、生態系である人類じたいからはみ出したような存在ではあるから、その点はクリアだろう。けれども、気に入らない。それは面白くないし、楽しくない。
波江とシズちゃんだって?冗談じゃない。優秀な秘書を、あんな化け物と一緒にしてたまるか。いや。波江に限らず、シズちゃんが誰かと、というのは非常に不愉快だ。シズちゃんは、常に1人でいなければいけない。化け物として、畏怖を受ける存在として、常に1人じゃなくちゃいけないんだ。
思わずぎり、と組んでいた腕を掴んでいることに気付いて、ふう、と息を吐きながら手にこもっていた力を抜く。まったく。なんで自分の家に帰ってきてまで、シズちゃんのことでイライラしないといけないんだか。こういう時くらい、シズちゃんの事なんか忘れてしまって楽しいことを考えないと。
そう!楽しいこと!たとえば、ダラーズや帝人くん。あとは、帝人くんの周りにいるこたちなんか、ものすごく面白い!!ものすごく、楽しい!!
これから、彼らがどうなるのか、と思うととてもわくわくしてしょうがない。
「・・・また、平和島静雄と喧嘩したの?」
思考をダラーズや帝人くんへと飛ばしていると、ふっと波江がこちらへ視線をなげてきた。せっかく気分が戻ってきていたというのに、相変わらず嫌なタイミングで嫌なことをきいてくるのはさすが、というか。
それでこそ波江だと言えなくもないし、これくらいじゃないと俺の秘書はやってられないということは分かっているけれども、思わず閉口した。
「喧嘩じゃなくて、一方的にシズちゃんがつっかかってきたから、俺は仕方なくそれの相手をしただけだよ。」
作品名:Can I.....? 作家名:深山柊羽