La notte precedente
ジャンは驚いて声をあげた。ジュリオの行動は時に突然で驚くことも屡だ。だがそんなジュリオを可愛いと思ってしまっている自分もいるわけで、性質が悪いのは結局自分なのだ。
ジュリオはといえば、とろんと酔ったような目をしてジャンを見、口を開いた。
「……甘い、です…」
「…ははっ、なーに舐めてんだよ、このエロワンコ」
「だって…ジャン、さん…すごく甘くて、美味しい…」
もっと欲しそうな顔をして、ジュリオは言う。そんなジュリオに苦笑してジャンは箱に手を伸ばした。
「…ったく。ちょっと待ってろ」
「え? …あ…」
ジュリオに待てをさせて、ひょいともう一つチョコレートを摘む。それをジュリオが見ている中でぽいっと口の中へと放り投げた。
「あの、ジャン、さん…」
お預けされた犬がそれを見てごくりと興奮に喉を上下させる。そんなジュリオに挑発的に微笑んでジャンはちょんちょんと自分の唇を指先で叩いた。
「…ジュリオ、今キスすれば、もっと甘いぞ?」
「…ジャン…!」
そのジャンの言葉にお許しをもらった犬のようにジュリオは飛びついた。熱い唇があわさって、口内で舌が暴れる。
二人の熱でチョコはすぐに溶け出して、甘さと酸欠でぼーっとする。
ジャンの唇の端から飲みきれなかったチョコレート色に染まった唾液が零れるが、それをぺろりと舐められた。本当にまるで犬だ。
「…ふっ、ん…ぁ…、こ、ら…んっ…、がっつくな、って…」
「すみ、ません…でも、あまい…ジャンさん…美味しい…」
ようやっと離れたと思えばまだ足りないらしく、顔を近づけてくるジュリオにまた唇を奪われるが、このままここでいたすわけにはいかない。仕事もまだ終わってないし。
これが終わらなかったら、今日まで頑張った意味がない。それに、他に誰かがここに来たら最悪である。
「…んん…、こーら…、もう、駄目だって…っ」
だから少し強めにジュリオの身体を押しやれば、ジュリオは名残惜しそうではあるが素直に離れた。
「…でも、ジャン…俺…!」
発情した犬みたいになっていたジュリオは、突然お預けをくらって涙目でジャンに縋るけれど、今許してはいけない。
すうっと息を吸って、「ジュリオ」と今この場に似つかわしくないような声音で名を呼ぶと、びくりと肩をふるわせた。まるで叱られた子犬のようだ。
そんなジュリオにふっと笑って、頬を撫でてやる。
作品名:La notte precedente 作家名:みみや