銀河
僕は、僕の家へたびたびアメリカが泣きにくるなんてことを誰にも言ったことがない。だからアメリカは僕のところへたびたび押しかけてきたのかもしれないとふと思う。あなたの大好きな、幼い頃の彼が、まだ変わらずここに残っているんですよ、なんて、僕はあの人に言えるはずもなく、言うつもりもなかったので、あの人は彼があの人のことでこっそり泣いていることも知らない。
彼は大きな子供だった。
誰も気がつかない。子供っぽいな、なんて、そんなことは言うけれど、子供だな、なんて誰も言わない。言えるはずもない。立場の問題もある。過去のごたごたの問題もある。彼の姿かたちの問題もある。僕はマシュー、と彼に名前を呼ばれた後、彼のことをアメリカではなく「アルフレッド」、と呼ぶようにしている。彼がそうしてくれといったことはなかったけれど、そうして欲しいのではないかと僕は思っている。
彼はよく僕らの名前を呼びたがった。二人きりの時はいつも呼んでもいいかと聞いてくる。僕だけでなく。誰かひとりでもその理由に気がついたなら、彼がこんな風になっている理由も、誰かは少しだけわかるかもしれない。
さめたココアのはいったマグカップをキッチンへ持って行き、僕は自分が飲んだマグカップをシンクへおいた。水に浸しておく。それから部屋の奥へ引っ込んで、自分と、彼の分のコートやマフラー、手袋、そして靴を取り出してきた。自分のものは身に着けて、彼のものは、ソファにすわっている彼へ投げた。「アル、ほらはやくそれ着て」、と僕は微笑む。アルフレッドは何がなんだかわからない顔で、「なんで」、と僕へ聞いてくる。僕はいいから、と彼を促した。しぶしぶそれを着込んだ彼の手をとり、僕は玄関へ彼を引っ張っていく。「外へいくのかい」、とアルフレッドは嫌そうに僕へ聞いた。「そう」、と僕は答える。「外はさむいからね、ほらちゃんと帽子もかぶってよ」、僕はいいながら、コートのフードを彼の頭へかぶせた。
「いやだよ、家の中の方があったかいじゃないか、戻りたいんだぞ」
「じゃあお好きにどうぞ。今度からきても玄関のドアなんて絶対にあけてあげない」
「君はたまにすごく意地悪だ」
「君はいつもわがままだね」