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ゆめのおわり

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2.

小さいころ、正臣は帝人のヒーローだった。
少し内気なところのあった帝人は、何をするにもまず正臣に先導され、困ったことがあったら、まず正臣に相談していた。
帝人にとっては大きな悩みでも、正臣は、持ち前のその明るさと大胆さで、
時には笑い飛ばし、時には的確なアドバイスをくれて、帝人の心をいつも救ってくれていた。
長じてからは、一方的に助けられることは減ったが、やはり、帝人にとって正臣は、
いつも、自分には思いもしない世界を見せてくれる、憧れの存在だった。
池袋に来ることになったのも、そんな正臣に誘われたからだった。
自分はもしかしたら、そんな、正臣のような、”ヒーロー”に、なりたかったのかもしれない。
今度は自分が、正臣や、杏里にとっての。
でも。
敵わないなぁ、そう思って、笑う。
悔しくはあった。情けなくもあった。けれど、それ以上に、あの地獄に現れた二人の姿が眩しすぎて。
僕は、間違っていたのかな…。
一人で、何でもできると思っていた。
利用できるものは何でも利用して。
でも、その結果がこの状態だ。
一人で何でもできるなんて思い上がりだ。途中から気づいていたのに。
自嘲する。
もう、僕の望みがどうとか言っている場合ではなかった。
池袋の、池袋に集う大切な人たちのために、帝人のすべきことは他にある。
そのために。
そのために、皆、また力を貸してくれるだろうか。
そこでふと、思い出す。
けりをつけないといけない人がいた。あの人だけは、僕の手で。

「僕をかばうなんて、馬鹿ですね、先輩。」
全治2週間と診断された、青葉が入院する病室に現れた帝人を見て、青葉は開口一番そう言った。
その頭部には白い包帯がぐるぐると巻かれ、痛々しい様子だったが、相変わらずの皮肉めいた口調に、帝人は苦笑する。
「うん、そうだね。
 …でも僕は、僕の近しい人は誰でも、死んでなんかほしくないんだ。」
近しい人、ね…。
青葉を庇ったために、蘭のハンマーを受けた際に骨にひびが入り、ギブスがはめられた帝人の左腕を見ながら、冷めた声音で言う。
「甘いですね、先輩。
 そんなだから折原臨也にもつけこまれるんですよ。」
言外に折原臨也の背信を告げる。
「…うん。」
驚くかと思われた帝人だが、ただ静かに頷いた。
「これは、僕の甘さが招いた事態だ。
 だから、後始末はちゃんとするよ。僕の手で。」
とは言っても、みんなにも手伝ってもらわないとだけどね。
そう言って、帝人は自分の非力さを恥じるように、苦笑しながら頭を掻いた。


作品名:ゆめのおわり 作家名:てん