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ゆめのおわり

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3.

折原臨也は上機嫌だった。
臨也がダラーズに引き入れた怪人たちは概ね臨也の期待通りに池袋の町を掻き回してくれているし、
それに対抗するために帝人たちによる「粛清」もどんどん過激になっていっている。
帝人以外にも、怪人たちに抵抗しようとする勢力も現れ始めているし、池袋の人間模様の変化を誰より楽しんでいる臨也は、愉快でたまらなかった。

鼻歌すら歌いながら自身の部屋の鍵を開け、リビングに足を踏み入れたそのとき、
「動かないでください。」
ひどく落ち着いた、冷たい声が響いた。
同時に、首筋に冷たい感触が突きつけられた。
振り向かなくてもすぐに気づいた。この声は、
「やあ帝人君、思ったより早かったねぇ。」
かけらも動揺せず愉しげに声を掛ける臨也に、帝人は、もう一度、告げた。
「動かないでください。動いたら、刺します。」
常人なら背筋が寒くなるような帝人の口調に、全く何も感じていないように、臨也はいつもどおりの調子で問いかけた。
「どうやってここに?」
「…場所は、九十九屋さんに教えてもらいました。部屋の鍵は、張間さんに複製してもらって、入りました。」
そして、リビングの、入り口からは死角になっている部分に身を潜めていた、と。
「健気だねぇ、帝人君。そんなになってもダラーズのために頑張るんだ?」
負傷していると気付かれないように、左腕のギブスは外してきたが、臨也には筒抜けだったらしい。
ダラーズのため、という臨也に、帝人は、ゆっくりと、反論した。
「いいえ、もう、ダラーズのためではありません。
 池袋の…池袋に住む、僕の大切な人たちのために、僕はここにいます。」
「ほう?」
静かな、けれど、決然とした口調で告げる帝人に、わざとらしい、びっくりした、というような声をあげる臨也。
「なるほどなるほど、帝人君の興味はダラーズから、池袋全体に移ったと言うことか。
 それはそれでなお結構だねぇ。」
そう言って、心底愉しそうに笑い出した。
「さすが、帝人君!
 本当に君は見ていて飽きない!最高だ。」
突きつけられている凶器を全く気にしていないかのように身振り手振りで大げさに
告げる臨也に、冷たい声で告げる。
「彼らを止めてください。臨也さんなら、できるでしょう?」
凶器を握る腕に力を込めながら言うが、臨也は心底残念そうに両腕を挙げた。
「残念ながら、彼らは彼らの自由意志でやっているから、僕には何にもできないんだよ。」
嘘臭いことこの上ないが、恐らくそれは真実だろう。
それが臨也のやり方だ。
諦めて、小さく息を吐いてから、最初から予定していた目的を口にする。
「なら…僕に協力してください。」
さもないと。
臨也に突きつける凶器を持つ手に意識を集中する。
きっと、こんなもので言うことを聞かせることはできないだろう。
ならもう一度臨也に体を差し出す?馬鹿げてる。臨也にとってあれはただの遊びで、それによって臨也の生き方を変えることなんてできないだろう。
どう脅迫すれば真実の協力を得られるか。内心必死に頭を働かせていたが、
「いいよ。」
あっさり頷かれて拍子抜けする。
あまりにも簡単すぎて、逆に疑いを強める帝人に、臨也は振り返って笑いかけた。
「もう十分見たかったものは見れたし、
 ここからは、帝人君に協力したほうが面白そうだ。」
信じていいのか、帝人は一瞬迷う。
だが、今は少しでも戦力が欲しかった。
「今度また、もし、裏切って、正臣や園原さん、みんなを傷つけたら…。」
だがこれだけは、と、本気の殺意を込めて告げると、臨也はすぐに軽い口調で反駁する。
「そんなことはしないよ。俺は嘘はつかない。」
たしかに臨也は、今まで、本当のことも言わなかったが、嘘をついたこともなかった。
臨也の言葉をどうとるべきか悩み、黙り込む帝人に、
「何より、俺は帝人君を誰よりも愛しているからねぇ。」
そう言って、いつもと全く変わらない、胡散臭い笑みを浮かべた。


作品名:ゆめのおわり 作家名:てん