雪柳
乱太郎は願った。
私はどうなってもかまいません。
神様、お願いです。
みんなを学園のみんなを返してください。
なぜ、私だけ生きているのでしょうか!
私だけが生き残っても意味がありません。
あの学園のみんながいたから、笑えたんです。
泣けたんです。
怒ることができたんです。
お願いします。
私にみんなを返してください!
返していただけるならば、私は対価として、自分をあなたに捧げます。
神様、刻の神様!
私の願いを聞いてください!
乱太郎は一心不乱に願った。
そして、その願いは神に届く。
声ならぬ声が天をかけ抜けた。
『その願い、きき届けよう。そなたの強き願いと思い、全て私の心に響いた』
その声に乱太郎は頷いた。
「ありがとうございます」
『その変わり、おまえは永遠にこの土地に縛られる。よいか? 輪廻にも入ることかなわず、人としては生きられぬ。今世に置いてはただ眠るのみ。友が来世に生きたときそなたはそこの守り神としてしか生きられぬ。それでも、願うか? 皆を生かすことを』
「願います。私はどうなってもかまわない。一人で生きることに何の意味がありましょう。私は学園の皆がいてこその存在。ならば、私だけが生き残っても意味はありません」
知っている。
みんなが自分を生かそうとし、庇ってくれたことくらい。
けれど、それが乱太郎を傷つけた。
涙はとうに枯れはてた。
こんな結末を誰もが望んでいないことくらい百も承知だ。
「神様。残され、思いは受け取りました。けれど、私はそれを望まない。私の願いは…」
『みんなで生き抜くこと』
「それがないのならば、私は生きることはできません」
乱太郎はしっかりといい、神に言い放った。
『そなたの願い…承った』
そして、学園とその社とに光の柱が立った。
その光は、学園にいた敵は一層した。
学園は元に戻る。
ただ一人の子供の願いのままに
『…願いは叶えた』
「ありがとうございます」
『よい。お前はこれから深い眠りにつく。来世までの眠りを。そして、この学園の者が来世に転生した際にまた巡りあうであろう』
「それは…」
『記憶は戻るかはその者たちが望めばそれは叶うようにしておこう』
「あなたは…」
『優しき人の子よ。我も元は人。生贄としてこの社に入った。そして、優しき神に助けられた。…優しさは回るものだ。お前の優しさが』
乱太郎はうつむいていた顔をあげる。そこには光の中で笑っている子供がいた。
「神様?」
『お前の優しさは皆を幸せにする。それは確かなのだ。だから…お前は笑っていておくれ。悲しみはお前には似合わない。…いつも、お参りに来てくれてありがとう。乱太郎』
「知っていたのですね…」
『ああ、お前がいつも華を備えてくれた。そして、学園のことを語っていた楽しそうなお前に我も癒された。我はお前の笑顔が好きだよ』
「…神様」
『少し、お休み。乱太郎。起きた時には…皆が笑ってお前を迎えてくれるから』
「はい…」
神の手に乱太郎は倒れた。
『…一人残された時についた傷は時間がかかる』
子供は乱太郎を繭で包む。
『お休み、乱太郎。良い夢を』
そして…光の柱は消える。
乱太郎は眠る。
優しい繭の中で。
ずっとずっとゆりかごで眠る。