雪柳
乱太郎を最初に見つけたのは、学園まわりの確認をしていた土井だった。
二人も生徒を守るために、命を落とした事を覚えていた。守りたかった可愛い生徒達。闇から光へと景色が移り変わったとき、二人は死んだ場所に立っていた。
怪我もないいつもの自分たちに。
急いで学園内を確認した。
子供たちは?
そして、学園は?
敵は?
色々な事がわからないままだった。
敵はいなかった。
あれだけの圧倒的な戦力がなくなっていた。理由はわからない。だが、脅威は去ったのだと先生一同が無意識に感じ取っていた。
生徒達はほどなく見つかった。
ただ誰もが自分は死んだはずなのにという。
そして。
『乱太郎は?』
『は組の子供たちは?』
と共通の言葉を言った。
最後に見つけたのは、は組。
この時ばかりは、は組という生徒達がどれほどの運を持っていたのかを知る。
そして土井と山田は自分たちの生徒達をやっと見つけることができた。
「お前たち…」
「先生!」
「よく頑張ったな」
全員が一度自分の命がなくったことを理解していた。
「でも、どうして」
「それはいま調べているところだ」
「…乱太郎ときり丸としんべヱは?」
「一緒ではないのか?」
三人以外のは組がそこには揃っていた。
「多分、最後まで残ったのはあの三人です」
庄左ヱ門がつぶやく。
「僕らがそう望みました」
あの三人だったら、生き残れると思ったから。
「でも、その後のことはわかりません」
「わかった。お前たちは先に学園に戻りなさい」
「わかりました。みんな、帰ろう!学園に」
本当であれば着いていきたい。けれど、状況がわからないままに動けない。それに、先生たちの邪魔をしたくなかった。
「学園で待っています」
庄左ヱ門がいうと、皆頷いた。土井と山田は全員の頭を撫で乱太郎たちを探しに動いた。
ほどなくして、見つけたのはきり丸としんべヱだった。
「きり丸!」
「しんべヱ!」
「「先生!!」」
二人は泣きじゃくる。学園で最後まで残ったのであろう子供達。
「無事であったか」
「よかった」
「先生〜」
しんべヱが安心してはいるが心配そうな顔をする。きり丸は何処か虚ろだ。
「お前たち、乱太郎はどうしたんだ?一緒にいたのではなかったか?」
「乱太郎は…」
「乱太郎とは、ここで別れました。…別れたというよりは無理やり一人で走らせました」
「乱太郎は生きてるはずなんです」
二人の言葉から、最後まで生き残ったのが乱太郎であるとわかった。
あの一番優しい子供が学園の全ての人の死を受けとめたのか。土井は顔を陰らす。山田もだ。
「何処にいるのかはわからないのか?」
「わかりません。でも」
「でも?」
「この先には刻の社があるから、行くとしたらそこしかないんです」
「刻の社?」
「乱太郎、よくそこにいってたの。だから」
「わかった。確認してくる。山田先生。二人を頼んでも?」
「わかりました。土井先生もまだ状況がわからないのですから、無茶をしないでくださいよ」
「はい。きり丸、しんべヱも心配するな。必ず乱太郎を見つけるから」
「お願いします」
「…絶対に見つけてくださいよ?」
二人の頭を再度撫で、土井はそこから消えた。
土井はきり丸としんべヱが行った社へと向かった。そこは、学園からそこまで遠くはない場所。乱太郎が一人で来るには問題ない距離だった。
「…ここか」
土井は社の鳥居をくぐった。
「これは…」
そこは光に溢れていた。その光を土井は知っていた。
「あのときの光か」
闇から光へと導かれたときに見えた光。
それは優しいくて悲しいと感じた光。
「ここのものだったのか…」
土井は少し警戒して中に入る。
そして…乱太郎を見つけた。
繭に眠り続ける乱太郎を。
繭の中で眠っている乱太郎。
けれど、そのその姿は痛々しいものだった。繭の中にいる乱太郎は着ている物は所々切れ、そして血がついていた。一生懸命走ったのか、履いている物もボロボロだった。泣いた後もあった。
「そうか。最期まで頑張ったんだな」
土井も山田も別れの際に子供達に叫んだのだ。
『生き抜いてくれ!』と。
「でも、お前にはそれは酷く辛い事になってしまったんだな」
次々と倒れていく仲間を乱太郎は全て見送ったということだ。死の間際にいなかったとしても最期の別れには必ずいたという事。
「ごめんな、乱太郎」
全部、お前一人の背中に負わせてしまって。
乱太郎にはとても辛かっただろう、その選択。
土井は繭を優しく撫でた。