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そういうわけなので彼女にはさわらないでいただきたい。

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静緒は怒りを覚える前に呆然としていた。
あの夢だ。じゃああれは半分は夢じゃなくて、本当はこんな意味のわからない男に触られていたのか。
下着までめくりあげられて、全部見られた。
こわい、と思った。ずっと寝ていたらどうなっていたんだろう。
鼻の奥がツンと痛んだ。体中に鳥肌が広がって歯の付け根が音を立てて震えだす。
この服だってひょっとしてこの男が触ったものなのか。下着も。肌にも触れているのか。

「あ…なんで」
「なんで?なんでってどういうこと静緒。セックスだよセックス。静緒だって気持ちいいだろう?」

男と目があった。
なんで笑ってるんだ。意味がわからない。
目を反らしたら、今度は臨也と目があった。
無表情のまま静緒をじっと見つめて、次に目を反らしたのは臨也だった。



「だから、お、おまえがじゃまさえしなければ俺はおれ、は、ぎゃああ!」


臨也が思いっきり男を殴り飛ばしている。
歯が当たったのか少しだけ血が飛んだ。それも気にせずに、もう一度。
意味不明な音を立てる顔をしっかりとつかみなおして、もう一度。
そして最後に両手でしっかりと襟首を掴み直して―――男の鼻目掛けて頭突きをした。




「シズちゃん!」
「あ、う…」
「ガムテープ持ってきて。急いで」
「わ、かった」




やっぱり無表情だ。
臨也でも良いから慰めてほしい、っておもってしまうのはおかしいのかなとグズグズ鼻を鳴らしながら、静緒は他のちょっとした工具と一緒に仕舞っていたガムテープを持ち出した。臨也に渡すとひったくられる。それにさえびくついてしまうのは、心が弱っているからだろうか。
男の腕と足をガムテープでぐるぐると縛りあげるのをぼんやりと見ながら静緒は困り果てていた。
なんでだろう、もう脅威は去ったはずなのに、やっぱりこわい。



「いざや、あの」
「すぐ出かけるからね。今は逆らわないでね」
「え、その」
「逆らわないでね」
「…うん」