裏表ラバーズ
しかし、そこで姫谷は妙な違和感を覚える。
普段の善弥ならもっと派手でカラフルなものを選び、しかも気に入ったものは片っ端から買っていくのだが、今は革の重厚そうな黒に近い色の手袋ばかり選んで『どうしよっかなー』と呟いている。
しばらく悩んで、やっと決まったようだ。手に取ったのは善弥にしては珍しい、シックな革の手袋。
「では……」
姫谷が促す前に、善弥は早々へレジへと歩を進める。
自分で会計を済ませたいらしい。姫谷が行動するより先に、財布からカードを取り出していた。
「んーっとね、この包装紙にぃ、このリボンで!」
しかも、プレゼント用のラッピングのサービスまで頼んでいる。
「プレゼント……ですか?」
善弥がプレゼントをする相手といったらだれだろう。
色白な善弥の元同級生のことを思い出すが、すぐに趣向が違う、と姫谷は思いなおした。そして、驚愕する。
ラッピングが終わったその手袋を、
「ハイ、これ、あげる」
と、姫谷に手渡したからだ。姫谷には、その意図が分からない。
「坊ちゃんが……私に、ですか?」
「そうそう」
うんうん、と楽しそうに善弥がうなずく。
「しかし……」
姫谷は動揺している。
善弥からプレゼントをもらうような謂れがない。
「もぉ、キタニ今日は何月何日ぃ〜?」
口をとがらせて、善弥が問い返す。
「今日は10月18日……ですが」
それがどうしたというのだろう。ただの平凡な日曜日ではないか、と姫谷は思う。
「ホントになんだかわからないの?」
「はぁ……」
と返答したら、善弥に怒られた。
「もぉ、キタニ、自分の誕生日忘れるなんてサイテー」
つまり。これは、善弥から自分への誕生日プレゼントと受け取っていいのだろうか、と姫谷は悩む。
「この年になりますと誕生日を祝うようなものでもありませんし」
30を過ぎた男が浮かれて誕生日を祝うようなものでもないだろう、と思う。
「あのね、誕生日はいくつになっても大切なの。大事な日なの」
そういう割に、去年も一昨年も何もなかった気がするが、いったいどういう心境の変化だろう。
「もういい。とにかく俺が祝いたいから祝うの! 文句は受け付けないからね!」
そういって、びしっと緑の包装紙に赤のリボンをラッピングしたその小箱をつきだす。
「それで? 受け取るの? 受け取らないの!?」