楽園にふたり
だが今、俺には部屋に入らなければいけない理由があった。中から何やら音が聞こえてくる。それはもしかしたら、迷い込んだ野生動物の出しているものかもしれない。ギルベルトの私物があるのだとしたら、荒らされてしまう前に外に出すのがいいに決まっている。大切なものが置いてあるかもしれないし。
済まん、と約束を破ることを心中で詫びながら、俺は扉を開いた。
「…?」
室内はこざっぱりしたものだった。ギルベルトか言っていたような状況は見受けられない。物などほとんど置かれておらず、隅に洋服箪笥と木箱が何箱か置かれているだけだ。動物らしきものも見当たらない。
おかしいな、思って辺りを見回せば、肌に風の流れを感じた。また物音──きぃきぃという音がする。それは、鍵が外れて開いてしまった窓の蝶番が立てる音だった。何だそういうことかと、俺は近寄ってしっかりと窓を閉める。そうすると風が窓を鳴ら以外の音はしなくなった。これで問題は解決だ。
だが俺の心には解決出来ない疑問が生まれていた。ギルベルトはどうして嘘など吐いたのだろう。私物らしき物はあるものの、彼が言ったように整理されていない訳ではない。寧ろきっちりと片付けてあるではないか。ならば口にしたあれは俺をこの部屋に入れない為の口実だったのか。何故嘘を吐いてまでこの部屋に自分を入れたくなかったのだろう。疚しい物が置いてあるようには見えないが。
俺は洋服箪笥と木箱に目を向ける。木箱は上に布が被せてあるだけで、蓋は開いているようだ。そこから何かが覗いている。
ずくり、頭が痛んだ。
見るなという声と見なければいけないという声が交錯する。ふらりと足を踏み出し、俺は布を掴んだ。ゆっくりとした動きで取り去ると、現れたのは信じられないものだった。拳銃と、その弾丸。どちらも1つではなく、何ダースといった単位で納められている。
何なのだろう、これは。どうしてこんなものをギルベルトが持っているのだろうか。ここで静かに暮らしている分には、拳銃等いらない筈だ。
俺は得体の知れない感情につき動かされて、洋服箪笥を開く。そこには濃緑のジャケットが掛けられている。濃紺のものも。下にはズボンやシャツが畳んで置いてあった。シャツの上には安置するかのように十字のペンダントがある。
ずくりずくり、頭の奥が痛む。何だこれは、一体何なんだ。