オチない来神SSSS!!
3。ドタチンと臨也―u
カウンターで本を借りている間に左斜め横に誰かの気配を感じて、俺は振り向いた。
「どたちーん」
臨也は明るい声のままいった。
「新羅にいじめられたー」
明るい声で、けれど顔はさも傷つきましたという表情をつくって臨也は言う。
「・・・・・・・とりあえずここじゃ邪魔になるから廊下出るぞ」
「はぁーい」
まるでカルガモのように臨也は俺の後ろについてきて、そして図書室を出た途端くいくいと俺の制服を引っ張った。
振り返るとさっきと同じ顔だ。傷ついたという表情、をつくっているような表情。知らない奴が見たら何があったのか問いかけたくなるような、少し勘がいい奴が見たらそれをわざとつくってるのがまるわかりのような。新羅のような付き合いの長い奴や静雄のような勘がとびぬけていい奴ならそれさえも計算の内というのがわかってしまうのかもしれないが。
廊下に背中を預け、臨也が話し始める。
「新羅がさぁ、俺に不幸になってほしいっていうんだ」
「・・・」
「別にその時話してた話題に何も関係なくてね、何かもう、うん、意味分かんない」
意味分かんない、と臨也はもう一度呟いた。
臨也を「いい意味で吐き気がする」と評していた新羅が真面目にその通りの意味でそう思っているとは思えないし、臨也が本気で傷つくなんぞもってのほかだ。おそらくこいつが今いったように、「理解できない」、だから戸惑っているのだろう。一体ナニユエそのようなことをいったのか理解できていないのだ、と思う。もしかしたらただ単に新羅にいわれたことを報告しにきただけでこれも全部こいつの演技かもしれないという戸惑いのようなものが心の片隅にあったが、もしそうであっても特に臨也が喜ぶだけなのでどうでもいい。
俺より何倍も頭のいい筈のこいつが意味がわからないというのだから俺が考えても仕方ないだろう。もしかして意味はわかっているのだがその理由がわからないのかもしれない。何となく答えは身近な場所にある気がしたが、俺は静雄よりは勘は弱いので放っておくことにした。
とりあえずそのままの状態で居る臨也を見、俺に求められているのはただ奴の呟きを拝聴するだけかと自問自答し、右手を中途半端な高さまで上げてゆっくりと降ろし、静かに奴の隣に立って同じように廊下にもたれかかった。鞄から先程借りた本を出し、ぱらりとめくる。
そして4、5回めくったところで「ドタチン」と俺を呼ぶ声が聞こえた。俺はいつも通りそのあだ名は止めろとつっこみ、本を閉じて鞄にしまった。
何故か、両手で腕を掴まれた。
「・・・・・・・・・・・・・おい」
「一生離れてやるもんか」
「風呂とかどうすりゃいいんだ」
淡々と俺がいうと、臨也はけらけら笑って俺を引っ張るように足を進めた。下駄箱に向かっているようだ。どうやらあいつの中で考え事は一つの解決をみたらしい。もし俺が他に学校で予定があったらどうすんだと心の中でつっこみ、そっと顔に微笑を浮かべた。
作品名:オチない来神SSSS!! 作家名:草葉恭狸