クラウ×フロワード
「ぶえっくし!・・・あー」
盛大にくしゃみエチケットを違反しクラウは呟く。
「・・・誰か噂でもしてんのかな・・・ぶえーっくし!」
5
「仲間との交流を図るのも、仕事の一種だとは思わないか?」
爽やかな笑顔のシオンに、クラウは壮絶に嫌な気配がした。
「あ?まぁ・・・でも今更お前と交流図っても・・・」
「なんで俺だけなんだお前と二人きりとか絶対御免だ。そうじゃなくて皆でだよ皆で!」
いつになくシオンが楽しそうで、クラウも少し乗ってきた。
「ほー。で、何するんだ?」
「いろいろ候補はあるんだ。飲み会とか旅行とか海とか。何が良い?」
「なんだ、まだ企画段階なのか」
「あぁ。他の奴らにも色々聞いててな。フロワードとかにも聞いてみたんだが・・・」
「だが?」
フロワードの名前を聞いても無反応のクラウ。そこで反応するほど子供でもないらしい。
シオンは「怒るなよ」と前置きして言った。
「そういう楽しいことはそれ相応に頭の軽い人物に考えて頂くことをお勧めしますよ。だってさ。だから何か良い案ないか?」
「・・・何故それを俺に言う?」
クラウをまぁまぁと宥めてシオンはさらに言う。
「費用は皆でちょっとずつ出そう。人数は多い方が良い。お前も誰か誘えよ」
「ああ任せとけ!」
「暇なときに見ておいてくれ」
上記の言葉付きでシオンから受け取ったままになっていた折り畳まれた紙を開く。
そこにはこう書かれていた。
『○日 夜7時開催!英雄王と無礼講パーティー』
「・・・?」
チラシを見ていくと、どうやら国王派の軍人の一部を集めてパーティーを開こうというものらしかった。極内部の催しで仕事抜きのものだという。
そう言ったものに全く興味のないフロワードはチラシを捨てようとするが、シオン直筆の箇所を見つけて目を通す。
『絶対来てくれ!たまには皆との交流を深めようじゃないか!待ってるぞ!あと、パーティーにはドレスを着て来るんだぞ!』
「・・・?」
眉根を寄せるフロワード。
極内輪の楽しい会に何故わざわざ自分を呼ぶのだろうか。
一緒にいて楽しい人物ではないと自覚しているフロワードは不思議に思う。
しかし生粋の真面目仕事人間である彼女は、上司の言葉には従順であった。
○日というのは今日で、今はパーティー開催10分前。急いで外用のドレスを見繕い始めた。
シオンがフロワードにチラシを渡す、3日前・・・
「金が無いとか言う以前に時間が無い」
「飲み会にすっか」
「パーティーと銘打った方が女性が来やすいんじゃないか?」
「女性が来やすい・・・英雄王と握手会なんてどうだ」
「趣旨が変わったぞ。でも無礼講パーティーとかならいいかもな」
「英雄王と無礼講パーティー・・・無礼講も何もない面子でか」
「それはお前だけだクラウ」
楽しいことが好きな頭の軽量が軽くついでに身のこなしも軽いクラウの提案をシオンは呑んだ。
「じゃあそれにしよう。もう費用は集めてあるし、そうだな。開催は・・・一週間後ならなんとかなるか?幹事君」
「てめぇ俺に全部やらせる気か・・・いいけどよ」
「俺はお前と違って忙しい」
「あってめっ。最近は俺だって真面目にだな・・・」
クラウを適当にあしらい、クラウが帰っていったところでカルネが入れ替わりでやってきた。
「一週間後、パーティー開催だ。酒の用意をしとけよ」
シオンはニヤリと笑い、カルネもニヤリと笑った。
「おーけーですシオンさん!これで巧くあの二人を二人きりにさせて・・・!」
「こっちは見物させて貰おう!」
「僕フられるに賭けますよ」
「じゃあ俺はそこまで進展しないに賭けようかな」
「進展しなきゃ意味ないじゃないですか!」
「あ、そうか」
二人は完全に遊んでいた。
そんな馬鹿みたいなやり取りがあったなんて知らないクラウは、定刻通りに言われた通りに正装でパーティーに臨んだ。
シオンはいつもよりやや軽めの服装で、他の軍人と似た格好をしていた。
「無礼講パーティーだからな。これでいいんだ。いつもの服は肩が凝る」
苦笑いするシオンに違いないと笑う。
「結構少ないな」
周りを見渡すと、ほとんど見知った人間ばかりだ。男ばっかりで女が極端に少なかった。
「まぁ仕方ないな。あんまり騒ぎにもしたくなかったから本当に内輪だし、近い奴らにしか声かけてない」
シオンはワイングラスを呷る。
「とりあえず、ここにいる女の子たちはフリーだから声かけて来いよ。人のことばかり言う前に」
「お前と俺じゃ立場が違うだろ。後継者が必要なんだから」
「俺はまだ若いからどーにでもなるって」
「俺だって若いつもりだっつーの」
憮然とするクラウに手を振って、裏方にいるカルネへと声をかけた。
「フロワードさん、本当に来ますかね?」
カルネは少し不安そうだった。しかしシオンは自信に満ちあふれた声を出す。
「来る。3日前に『暇なとき読んでくれ』と渡しといたからあの仕事量を考えるとそろそろ読むだろ。俺直筆のメッセージをみて来てみようかと片隅で思って、時間迫っていることに気づいたフロワードなら余計な考え排除して来ようとする!・・・筈だ」
シオンにも今一自信がなかった。
その通りに馬車を動かすフロワード。
(もうとっくに始まっていますね)
女のみだから一応身を整えるのに時間がかかるのだ。そんなに若いつもりもないし。
同い年くらいのクラウが聞いたら怒るかもしれない事を思いつつ、フロワードはもう一度チラシをみた。
「無礼講パーティー・・・酒もたくさん用意してあります・・・」
パーティーと酒にはどうも嫌な思い出が出来てしまった。いや、嫌と言い切れるものでもないが。
パーティー会場につく。というか普通にクラウの屋敷だった。
「まぁどこかを貸し切るよりはずっと安上がりですし・・・王宮を使うわけにはいきませんしね・・・」
仕事脳は今回のパーティーにかかる費用はいくらだろうと計算し始める。
「そう言えば費用は負担しなくて良い・・・とは。内輪のパーティーでそう言うわけにもいきませんし、どなたかにお渡ししなければ」
幹事に渡せばいいかと思いつつ、フロワードはクラウの屋敷に足を踏み入れた。
ここに来るのは二回目だなと思うと顔が少し赤くなる。もう来ることはないだろうと思っていたのだが、こんなに早く予想が破られるとは思わなかった。
案内され会場にはいると皆結構出来上がっていた。どれもフロワードの情報網に引っかかった人物たちで、思った以上に人数が少ないなと思った。
「やぁフロワード!遅かったじゃないか!」
珍しく顔をやや赤くしたシオンが言う。
「申し訳ございません」
「いやいいんだ来てくれただけで!早速で悪いが俺は少し仮眠を取るから抜ける。顔を見れて嬉しいよ。良く似合ってる」
爽やかにほほえむシオンに、そんな女性をほめる技量と微笑みがあるのだから早く女性の心を掴んで結婚してくれと思った。
寝不足と酔っぱらったことでいつもより充血した目を細め、「ははは」と笑いながら奥に引っ込んだシオンをみて、フロワードは少し心配になった。
「陛下の心遣いには感謝の言葉もないですね・・・あんなになられてまで部下の心配とは・・・」
実際は野次馬根性なのだが、フロワードはその事実をしらない。