One-side game
『不正取引の証拠をリークするので家族共々保護して欲しい』
そう電話で連絡が入ったのがほんの数日前の話。
「物資の横流しをしているようだと言っている。証人は帳簿に載せない荷物をよく判らん所へ流しているのを不審に思ったらしい。気真面目なんだろうな。会社側へどういう事か聞きに行ったら、逆に口止めと余計な事はするなと警告されたとか」
「それでコンタクトしてきたんで?」
「最近、人相の悪い奴等が出入りしだしたらしくて、それが決定打になったようですね。もう今や口封じに自分までどうにかされるんじゃないかというところまで脅えていまして」
「本人もだいぶ混乱していて、そこまでをちゃんと聞き出すまで、ブレダが苦労したらしいが」
他の者だったらこうもトントン拍子に事は運ばなかっただろうが、たまたま電話の対応をしたのがブレダだったのが幸いしたのか。電話の調子でホンモノだと判断された為に、事態はさっさと進んでいる。
「里帰りと称して家を出させて証人の家族も保護させた。あとは証拠書類と証人をブレダが連れて帰ってきたら、第2ラウンドだ」
「…泳がされてるとかじゃないんですかね」
「監視くらいは付いているかもしれんが、そこまで警戒するならもう既に何か起こってるだろう」
うわぁ物騒…。しれっと人でなしな事を応えて、大佐は時間を確認して銀時計の蓋を閉じた。
「そろそろ折り返しの列車に乗るはずだが」
「だとするとイーストシティへの到着は夕方になりますね」
取りあえず証人と証拠書類の確保と、早急な裏付け捜査、そして向こうに気付かれる前に立ち入り検査、だ。
「いきなり忙しくなりますね」
さっきのハボック風に言うのなら、査察も何もない。警告なしでいきなり手入れの準備だ。
今までにない急ピッチ、というかほとんど棚ぼたじゃないか?
怪しいな、と思ってた向こうから証人がきて、証拠もやってきて、って出来すぎていやしないだろうか。
「・・・ワリと楽できそうですね、今回」
「いつもとは勝手が違うのが気に喰わんがな」
何となく何か喉に引っ掛かっているような微妙な気持ちに首を傾げても仕方のない所だろう。まるでお膳立てされてるみたいで落ち着かない。
だがそれを考えない訳がないこの上官が、素直に乗る気配を見せているということは。たぶん別にどちらでも良いという事なんだろう。
これが本当にこんな事件でも、はたまた何かの仕掛けの一端でも。
何かのきっかけにさえなれば。
作品名:One-side game 作家名:みとなんこ@紺