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――二人は出会った事がない。それなのに会話ができるのは、津軽がずっと誰かに向かって音波を放っていた事から始まる。何度やっても決して誰にも拾われる事のなかったそれを、ある雨の日にサイケが津軽の音波を受信した。その日を境に二人の間には特別な回線が出来上がり、二人の間に繋がりができた。それまではずっとマスターと自分という閉鎖的な世界しかなかった彼らの視野が広がった瞬間でもある。ずっと出していた『声』を受け取ったサイケという存在を知った時の喜びをどうやって表現すればいいだろう。どうすればはっきりと『声』でしか逢瀬を重ねる事の出来ない彼に教える事が出来るだろうか。津軽はそれを延々と考えているものの、明確な答えを何一つ見い出せた事はない。結果として堂々めぐりしてしまう思考に嫌気がさして断ち切ってしまっている程だ。それを分かっているというのに津軽は一日に一回は必ずこの堂々巡りをしている。我ながら機械らしくない思考だと津軽自身思っているのだが、己を作った男は津軽に向けてこう言った。

『君は今まで僕が作ってきた数ある作品の中でも限りなく人に近い思考回路を搭載している。きっと君自身機械らしくないと思うかもしれない。だけど、君はそれでいいんだ』

初めてその言葉をもらった時意味が分からなかった。だが、時間が経つにつれて作り主の前半の言葉は理解できた。だが、後半はいつになっても理解できない。一体何がどうなれば、『それでいい』になるのか。そもそもあの作り主は何を思ってそんな事を津軽に告げたのかさえも分からない。
(……まぁ、あの人は昔からああだったってマスターも言ってたし……)
マスターのいう通り、作り主の言は深く気にしてはいけないのかもしれない。
そんな事をつらつらと考えていると、津軽が脳裏に響いていたサイケの歌声が唐突に切れた。
【どうかしたか?】
《うん!ますたーがかえってきたの!きょうはもうかいせんきらないと……つがる、またおはなししてくれる?》
【あぁ、いつでも、構わない】
《ありがとう!つがるだいすき!》
素直に己の気持ちを言えるサイケに津軽は羨ましく思った。
限りなく人間に近い思考というのは、こういう時素直な気持ちの吐露さえ満足にできない。まるで人間らしい言動をさせないストッパーのような役目を果たしているように思わせる程だ。そのせいで幾度となく歯痒い気持ちに捕らわれただろうか。それに対してサイケは中々感情を口にできない津軽を差し置いて、己の思うがままに言葉を口にする。すき、すき、だいすき、と。
そんな言葉を一度でいいから、口にしたい。口にすれば何かが変わるのではないか、とさえ思う程。津軽はその言葉を口にする瞬間に焦がれ続けている。

《ねえ、つがる。おれのおねがいってなんだとおもう?》

再び思考の渦の中に埋もれようとした津軽を止めるようにサイケが声をかけた。それは先程までの楽しそうに跳ね跳んだ音質ではなく真剣さを感じさせる音質だった。そう、サイケはただ天真爛漫で庇護欲をそそられるだけの機械人形ではない。数えるほどしか津軽も『声』を受信した事がないのだが、時折大人びた雰囲気を滲ませる時がある。一瞬、お前は誰だ?といかけたくなるほどに。それはおそらくはサイケのもう一つの顔なのだろう。二面性を持つ機械人形など聞いたことはないが、偶然にも彼は己と同じ制作主らしく、その人の名前一つでどこか納得させる部分も確かにあった。人に限りなく近い思考を搭載した人形もいれば、二面性を持つ奇妙な人形も作る可能性だってある。それほどまでに件の作り主は変わった思考をしている。
だから、だろうか。津軽は一瞬にして変化を見せたサイケに対し、大した驚きを見せなかった。
《おれのおねがいはずっとまえからきまってる。つがるはかんがえたことない?》
【願い……?考えた事はある】
だが、その願いが叶うとは思っていない。己が機械人形である限りは、永遠に。そんな津軽のもの思いに気付いていないのだろう、サイケは《ねがいはもってるよね、そうだよね!みんなもってることだよね!》と楽しそうに話しだす。そして、サイケはそれ以上何も言わずに沈黙を保っていた津軽に向けてこうささやいた。
《おれのおねがいはねー、つがるにあいたい、ってことだよ》
【……サイケ】
《あいたいよ、つがるにあいたいよあいたいあいたい。こんなにはなしてるのにかおもなにもわからない。あいたいあいたい》
その願いに津軽は沈黙した。
サイケの願いが自分に会いたい――という可能性何となく感じていた。だが、それをマスターがサイケに向けていった『願い』としていた事とは予想外だった。そんな事を口にすれば、彼のマスターはどう思うのだろう。嫉妬しただろうか?それとも己の機械人形にバグができたとでも思っただろうか?どんな考えを抱いても津軽はサイケのマスターではない。故にその心情察してやることはできない。だが、これだけは言える。それは津軽が人間の思考に限りなく近いように作られているからこそ分かる事ができるもの。
――他人の事を考える人形など彼ら人間にとって不必要な存在へとなり下がるのだと。
【サイケ、それはマスターに言ってはいけない事だ】
《どうしてどうして!おれはつがるにあいたいそれがねがいごとなのに!ますたーはなんでもいいっていった!いったもん!》
【でも、ダメだ。それはマスターの気を悪くさせてしまう。言っちゃいけない】
《ひどいっ!つがるひどい!おれはつがるにあいたいのに!なんで!?つがるはおれにあいたいっておもってくれないの!?ひどいひどいよつがる……》
キーの高い音で泣き叫ぶサイケの声が津軽の脳髄を刺激する。慣れない音の響きに頭が悲鳴を上げる。思わず頭を押さえながら津軽は再度サイケの声をかけようと《回線》を意識した。だが、津軽の放つ音波のせいでうまく繋がらない。頭の中にノイズが走る。それでも、まだ、サイケは泣いている。
【……ッ、サイ、ケ……】
《ひどいひどいつがるひどいひどい!あいたいあいたいあいたい……ッ》