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カナタアスカ
カナタアスカ
novelistID. 4748
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from the 35th floor

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 昼間のカフェテリアでも今日は来月の予定の話になり、流れのまま上司のパワハラと同じ話題になった。一日に二度同じ話を聞く、就職三年目というのはそういう節目なのかもしれない。一護はAランチをつつきながら、テーブルを囲む同期の言葉を聴いていた。
 年中仏頂面の一護がその手の話に水を向けられることはほぼないのだが、きっかけが一護の予定だったためか、やたら食いつきよく質問されてしまった。
「黒崎くんの彼女、焦ったりしないの?」
 自身は大学時代の後輩と付き合っている、プランナーがクロワッサンサンドをちぎりながら尋ねた。大盛カツカレーを半ば空にした、本店営業部の男も意気込んで訊いてくる。
「黒崎の彼女ってかなり年上なんだろ? 言われたりしねぇの?」
 三年も昼食を共にしていれば、いくら一護と言えどプライベートを明かす羽目になる。「年上で、自分で商売をしている」それ以上明かしようがなくて告げたキーワードは、しかし十分な効力を保持していた。
「…考えてないと思うよ」
 考えられていてたまるか。胸中で吐き出して一護は豚の生姜焼きを口に運んだ。焼きすぎで少々硬い。
(テッサイさんの生姜焼きのが百万倍おいしいよなぁ)
 男との関係は固定されて根を張って、生活の隅々で顔を出す。飲み会で口にした酒や食事がおいしかったとき、コンビニで見かけた新製品のキャラクターグッズ、新刊書。家に残した家族のことを思い起こすのと同じくらい、ふとしたきっかけで浦原商店の人々を思い出す、この関係性をなんと呼んだらいいのだろう。
 一護の返事を受けて、話題は「付き合ってどのくらいで決意するか」に移った。テーブルには学生時代からの相手がいる者も、最近相手ができた者もいて、出てきた答えもバラバラだった。ただ、一人と一○年付き合っているのは一護しかいない。
 …指輪、ねぇ。
 プランナーの右薬指で、ダイヤが初春の陽光を受けて自己主張している。クリスマスの後、もらったのだとサイズへの不満で照れ隠しをしつつも、うれしそうに自慢された。
 恋人が家族になるための儀式が「結婚」なのだとしたら、手続きを踏めない二人はどこへいくのか。
 別に、どこかへ行きたいわけじゃないけれど。でも、傍らにいた年月を形にして、これからを証するものは欲しいのかもしれない。
 そう思った自分に愕然とした。あの男に証を求めたがるなんて、どんな世迷い言だろう。男の本気とも冗談ともつかない軽口を真に受けようとしている、自分を窘めるべきなのに。
 あの時、一護を見た目は笑っていなかった。それが男の本気を意味していると、思いたがるのは錯覚だろうか。
 焼きすぎの生姜焼きを噛みながら、一護はひっそりと溜息をついた。



「七五三みたいだったね」
 高砂に座っていた啓吾を容赦なく評した水色の言に、仲間うちから遠慮がちな同意の笑いがあがった。
 レストランを会場にした二次会が終わって出てきたロビーには、似たような状況の人々が散らばっている。空座高校のクラスメートたちも、それぞれがクロークから私物を引き取ってくるのを待って集まっていた。
 ようやく携帯を見る余裕ができたと、一護はクロークから受け取ったバッグから携帯電話を取り出した。フラップを開くと、メールが一件。妹から、明日の帰宅時に買って来るもの、と題された買い物メモ。行きがけにはテッサイに明日の朝食の希望を問われた。今夜は「自宅」には帰らないと、暗黙の了解ができている。
 新たなメールの受信を知らせて、一護の手のうちで携帯の着信ランプが点滅した。
 たつきが織姫に、「お茶して帰ろうか」と提案している。
 水色は携帯を確認している一護の後ろ姿を眺めた。すっと伸びた首の後ろ、そういう気でなければ凝視しないあたりに、赤いしるし。水色にはどうしたって好印象ではなかった年上の男が、年下の恋人に付けたマーキング。
「一護は行くよね?」
 茶渡が「これから仕事だ」と謝った。水色は一護に声をかける。一○年経っても変わらない女性陣二人の視線を、気付かないオレンジ色の青年は携帯を凝視している。彼の心はマーキングした相手に向いていて、けれど、その相手が青年に向けた独占欲にも気付かない。
「…ごめん、ちょっと予定が出来た」
 申し訳なさそうに一護が否定を口にする。理由へは言葉を濁して。
 かつての時間を共にした面子が、死神関係かと目で問うたのにはゆるく首を振る。
(ああ、我慢しきれなくなったな)
 水色は心でだけ呟いた。
 一護の発言を聞いた途端にしゅんとなったお嬢さん二人をどこにエスコートしようか。行き先を悩むのは何時以来だろうと、一○年変わらぬ私生活を送る青年は思った。


 呼び出されたのは、老舗の域に入るホテルの最上階だった。地上三五階のメインバー。暗がりに沈む客は盛装が多く、結婚式帰りの一護の格好は普通か、むしろ地味なほど。
 黒服が案内した窓際のテーブルには、枯れた金髪の男が一人、寛いでいる。一護は黙って向かいの椅子に座った。
 周りのビルの屋上の看板や建物の隙間に見える高架のヘッドランプの尾や、宝石と呼ぶには泥臭い光が天井までの窓に映る。
 一日分欠けている月はまだ十分丸く、濃灰色の空に浮かんでいる。眼下には地上の星、と言いたいところだったが、ネオンを星に昇華するには都心の地上三五階は足りない。建った頃はターミナルを俯瞰したホテルも、年月を重ねるうち老舗と呼ばれるようなり、同時に周囲に林立した建物から見下ろされるようになっている。
 オーダーが届くまでの暇つぶし、消費者金融の看板を一○数えて、一護はそれ以上探すのを止めた。ここは地上からも天空からも中途半端な踊り場で、月にも星にも遠い。
「何かおもしろいものが見えます?」
 窓を覗きこんでいる一護へ、浦原が問いかけた。
「あんたと同じ色」
 短く答えて、一護は窓に琥珀色の目を戻した。
 テーブルの上のグラスを満たしたシャンパンも、少し歪んだまるい月も、正面の椅子に腰掛けた男の髪も、決まりごとのように同じ色。違う色を求めて、ビルとビルの隙間にちらりと光るヘッドライトを眺めてもあるのは風情のない看板だけ。地に下りれば薄紅色の花が美しい季節だが、ここに四季はないらしい。
 結婚式のあった真新しい高層ホテルから見たら、このビルのてっぺんも見下されているのだろうに。
「なんか用事できた?」
 昼に一護が浦原商店で支度をしていたときは、男が出かける気配はまったくなかった。急用でもできたのだろうか。浦原が出向く必要のある「急用」など、想像もつかないが。
 一〇年付き合って、そんなことも知らない。
「用事というか、まぁ、うちじゃないほうがいいかと思って」
 二次会の終わりを見計らうように、突然一護を呼び出した男が足を組み直した。
 大島紬の単衣に、綾織の羽織を合わせた浦原は、相変わらず決まりすぎて胡散臭い。いつもの格好でもあやしげだが、外出用にまともな服装をしても浦原は結局あやしかった。外出姿があやしいのは、たぶん、純粋な日本人ではありえない色味のくせに完璧に着こなす和服のせいだ。
作品名:from the 35th floor 作家名:カナタアスカ