カテリーナⅡ
2.
知っていた。
これが恋だということ。彼を、好きだということ。
だから私は、目を閉じた。彼の笑顔を見れないように。
耳を塞いだ。彼の言葉が聞こえないように。
自分のしてきたことが、矛盾しないように。
心に何重にも鍵をかけて、蓋をした。
そんなことを二度と思わないように。
守らなければいけないものがある。
私がやらなければいけない、そう思っていた。
私が、私が。いつだって、独りよがりで。自己満足。自己犠牲。自己欺瞞。
私は、知らないふりをした。
気づかないふりをして、目を閉じて、耳を塞いだ。
そして、逃げだした。怖かった。
今までの私のやってきたことが、否定されてしまう気がした。
なんのために?誰のために?
どうして?どうして?どうして?
疑問符が、くるくると私の頭の中を回る。
―――こんなに頑張っているのは、誰のため?
妹と話をした。彼女も、私と同じ。
わからなくて。泣いてばかりで。
ただ、兄を・ただ、弟を、守りたいと思うだけ。
「義務的な愛」
彼女は、私の言葉で答えを見つけた。
本当に大切なものを。本当に、大切な人を。
私も、きっとわかっていたんだ。
やっと、閉じていた蓋を開けた。
彼の笑顔が、彼の声が、頭から離れなくて。
もう一度彼の笑顔に会いたくて。彼の声を聞きたくて。
―――私が大嫌いな私を、大好きだと言ってくれる人。
抱きしめられた瞬間、確かに思った。
この人が好き。ああ、これが恋なのか。と。
今まで自分のことを後回しにしてきた私の、初めての我儘。
自分のために生きる。
今日、ここから。彼と、一緒に。
「返事、聞かせて?」
彼は笑顔でそう言った。
ずっと前に、逃げてしまった言葉。
バクバクと鳴る心臓がうるさかった。
「もう、わかってるでしょう?」
「俺は、ライナの言葉が聞きたいな!」
いたずらっ子のように彼は笑った。
顔が熱い。きっとすごく赤くなってるはずだ。
恥ずかしい、恥ずかしい!
「・・・好き、です。」
真っ赤に火照った顔を見せたくなくて、下を向いた。
「下向いちゃ駄目って、言っただろう?」
彼の笑い声がして、私は顔をあげる。
その瞬間、唇が塞がれた。
びっくりして、その場にフリーズしてしまう。
もしかしなくても、初めてだ。
彼の顔が目の前にあるのが恥ずかしくて、目を閉じた。
唇が離れると、彼は笑って言う。
「これからもよろしく!ライナ!」
彼の笑顔は太陽のようだった。