カテリーナⅡ
4.
今日は、妹とその恋人がやってくる日。
僕の姉と妹は、つい最近二人同時期に恋人ができた。
さみしいと思わないなんて言ったら、嘘になる。
大好きな姉と妹だ。他の男にとられるのは嫌だ。
でも、それよりも二人が僕から解放されたことが嬉しかった。
二人とも、僕という存在にずっと縛られていたのだから。
妹は僕のことが好きだった。
でも僕は知っていた。
彼女が僕を好きでいなければいけないと、自分に言い聞かせていることを。
所詮それは自己満足。
僕はロシアに発つ前に、彼女に言った。僕たちは兄妹だと。
妹は頑固で融通が利かないから、恋人の本田くんはきっと大変だったんだろうと思う。
姉だってそうだ。
姉は、僕を守ろうとしていた。
嬉しいけどそれは僕の為じゃなくて、彼女の為だった。
僕は、姉に姉の人生を生きて欲しかった。
恋人ができたと聞いたときは驚いたけど、それ以上に嬉しかった。
歳の差は離れているけれど、きっとアルフレッドくんは姉さんを幸せにしてくれるはずだ。
アルフレッドくんとは何度か会ったことがある。
向こうから挨拶しに来てくれたからだ。
歳が近いこともあって、それなりに仲良くなれた。
僕は教える側で、彼は教わる側だから、話が合わない時もあるけれど、姉さんが選んだ人間なんだから、僕は彼とこれからも仲良くしていければいいなと思っている。
妹はアルフレッドくんをかなり疑っているようだった。
姉さんはどんくさいから騙されてるかも、と胃をきりきりさせているらしい。
確かに姉は少しドジだけど、それ以上に聡明だ。
姉さんは誰かに騙されるほど抜けてはいない。それに、人を選ぶ目は確かだと思う。
妹もきっとアルフレッドくんに会えばわかるだろう。
それよりも僕はナターリヤの恋人のほうが心配だった。
話を聞く限りいい人のようだけど、さてどうなることやら。
妹の手紙にもう一度目を通すと、姉の僕を呼ぶ声が聞こえた。
「イヴァンちゃーん!ナターリヤちゃん来たわよー!」
僕は机の引き出しに手紙を入れて、リビングに向かった。
**
「はじめまして、本田菊と申します。」
ナターリヤと同じか、少し高いくらいの背丈の男は笑いながら手を差し出してきた。
見た目はとてもいい人に見える。
僕は彼の手を握って笑った。
「はじめまして、ナターリヤの兄のイヴァン・ブラギンスキです。ロシアの大学で教授をやっています。こっちは僕の姉のライナ。」
姉のほうをみやると、エプロンをつけたままぺこりとおじぎをした。
「はじめまして、ライナです。今日は私が夕御飯を作らせてもらうわね。」
ナターリヤは少しもじもじしてから、口を開いた。
「ひ、ひさしぶり。兄さん、姉さん・・・。」
ひさしぶり、と笑って、妹を抱きしめる。
姉もナターリヤの頭を撫でた。
妹は僕の背に腕を回して、肩に頭をうずめた。
「会いたかっ、た・・・です。にいさん・・・。」
「うん、本当に久しぶり。寂しかったね。」
妹は涙を浮かべていた。
本田くんはそんな僕らをにっこり笑ってみている。
僕はナターリヤの頭を撫でた。
「姉さんのポトフ、久しぶりでしょう?」
聞くと、妹はこくりと頷いた。
姉さんがキッチンに向かう。
「すぐ作るから、待っててね。」
「あ、私も・・・!」
ナターリヤも料理を手伝うとキッチンに向かって行った。
僕と本田くんは料理ができるまでソファに座って話すことにした。