カテリーナⅡ
7.
「よかったんですか?お姉さんに会わないで出てきて・・・」
本田は私に聞いてきた。
暗闇で顔はよく見えない。まだ目が慣れていないようだ。
「どうせ遅くまで戻ってこない。明日また会うんだし、いいだろ。」
私はまだ、姉の恋人を認めてはいなかった。
夕食の間もいらいらしていた。
けれど、本田が怒るので我慢した。
姉さんは、認めなくてもいいと言った。
「きっとナターリヤちゃんにも、彼のいいところがきっとわかるわ。」
ずっと誰とも付き合わなかった姉さんが、選んだ男。
わかってるんだ、ただの我儘だって。
姉さんが取られるのが嫌なだけなんだって。
いきなり誰かのものになるなんて、そんなのむかつくじゃないか。
・・・姉さんのあんなに嬉しそうな顔は、初めて見た。
三人で暮らしている時もよく笑っていたけど、その時とは違う顔だった。
きっとあいつの前でしか見せない顔。
「私にも、あるのかな・・・。」
ぽそりとつぶやくと、本田は首を傾げた。
「なんですか?」
「・・・なんでもない。」
私はふいと顔を背けた。
自分では、わからない。本田には絶対に教えたくない。
「ナターリヤさん」
「なんだ?」
「手、繋いでいいですか?」
本田は私のほうに手を差し出してきた。
断る理由も見つからなくて、私も手を差し出す。
「こうか?」
きゅ、と弱い力で手が結ばれた。
突然ふふふ、と本田が笑い始める。
「ナターリヤさん?」
「なんだ」
「大好きです」
きゅ、と力を入れて手を握られた。
身体が熱くなる。
「・・・私、も。」
夜空を見上げると、一番星がきらりと輝いた。