PUPPY LOVE
ルッスーリアは自室で退屈そうに爪の手入れをしているところで、訪ねてきたベルから話を聞くと俄然やる気を出してドレスとマーモンを預かり、
「出来上がったら連れて行くわ」
とベルを部屋から追い出した。
「可愛いドレスね。素敵」
「ヤだよ、僕、そんな服!絶対似合わない!大体、暗殺部隊がおかしいじゃないか!」
ふくれっ面で突っ立っているマーモンを尻目に、ルッスーリアはドレスをハンガーにかけ、形を整えると改めてマーモンに見せた。
「ね、マモちゃん、これどう思う?…うぅん、お金がどうとかじゃなくて、この服を見てどう思うか聞いてるだけよ」
ね?と促され、今まで色しか把握していなかったドレスと渋々向き合った。
古風なカメオピンクとホワイトの、どちらかと言えばロリータドレスに近い。上半身のフロント部分はサテンのリボンでレースアップになっていて、アクセントには襟元に大きめのリボンタイ。パフスリーブの下から手の甲辺りまでを隠す袖と、ふんわり膨らんだスカートは白地のコットンとオーガンジーでできていてフリルもたっぷりだ。
眺めているうちに、不機嫌そうに吊り上がっていた眉がふっと下がった。
帽子の下からじっとドレスを見つめる。まるで興味がなかったわけではない。ただ、自分とは無縁なのだと、今でも思っている。
「……可愛いと、思うよ」
「そう」
ルッスーリアはドレスを持ったまま、またマーモンに質問した。
「このドレス、着てみたい?」
なぜそんなことを聞くのだろう。マーモンは困ったように眉を顰め、サングラスの向こうのルッスーリアと視線を合わせる。
「…僕にそういうものは……似合わないってば」
「着ろ、なんて言わないわ」
マーモンはドレスを見つめた。フリルもオーガンジーもリボンも、ピンクも白も、ドレスやワンピースも、目にすることはあっても存在する世界が違っていた。
それは今目の前にあるこの服を見ても思う。まるで暖かな春の陽射しのようだ、と。
ドレスを見つめながら、ベルは一体どうして、この捉えどころのない夢のようなものを絶対似合うと言い切るのだろう、となんだか泣きたいような気持ちになった。
「着てみたい?着てみたくない?それだけよ」
思いの外長い睫毛を伏せて、答えを呟いたマーモンの小さな肩を、ルッスーリアはドレスと一緒にそっと抱きしめた。
作品名:PUPPY LOVE 作家名:gen