ドラマチック (静雄×臨也/童話パロ)
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翌日、臨也は霧の立ち込める陰気な山道を歩いていた。
森を抜けるのに思っていた以上の時間がかかり、昼前に家人らに見送られたというのに
既に日は落ち、あたりは暗闇に包まれている。
にも関わらず、うきうきと鼻歌まじりで微笑む姿はまさに遠足に向かう子供そのもの
だった。
「人生って何が起こるか分からないよね。まさかこの俺が化け物の花嫁になるなんて。
人間観察できなくなるのがネックだけど、仕事はPCと携帯電話があれば在宅だろうがどこだろうが出来ちゃうし、暇になったら旦那様(笑)に賞金でもかけて向こうから来させればいいしまーいくらでもやりようはあるよね」
黒のカットソーに黒ジーンズ、お気に入りのファーコートといつもの格好で森を進む臨也の花嫁道具はノートPCが二台と携帯電話が数台、扱いなれたナイフが数本。それと新羅から念のためにと手渡された即効性の劇薬が一瓶。
親の口約束で無理やり怪物の花嫁にされる、可哀想な一般人の悲壮感など微塵もない。
むしろこれは好機だ、と臨也は胸を躍らせていた。
「シンプルに行くなら国王かな。最近民衆の支持が得られなくてイライラしっぱなしだっていうからねぇ。ここで一発、怪物退治でもして勇名をあげれば民からの信頼はうなぎのぼり、ぼんくら扱いしてる大臣の鼻もあかせるだろう。いや、逆に大臣に討ち取らせたらどうかな。国王の座を先代の時代から虎視眈々と狙ってたんだ。2番手に甘んじていても野心は余りあるし、そこに民衆って後ろ盾が出来たらいい気になって一気に王座を狙うなんて展開もありだ。あるいは反乱軍の…」
ブツブツと独り言を呟きながら足を進めるうちに、臨也の目の前に巨大な門扉が現れた。
見事な彫りの施された鉄製のそれは重厚なつくりで歴史を感じさせる逸品ではあったが、今は周囲の雰囲気に呑まれ、ただ不気味さを演出するのみだった。
格子にも蔦が這い繁り見るも無残だったが、そもそも建造物に興味のない臨也はなんの感慨もなく扉に手をかけ押し開く。
ギィ、と重い音を立てる門は意外にもあっさりと臨也の進入を許した。
踏み込んだ先はかつては閑静な庭だったのだろうか、白いテーブルセットや薔薇の絡むアーチが目に入る。
だがそれらは手入れがされず放置された結果、ただの薄汚いオブジェとなっていた。
均等に区画分けされた花壇には大小入り乱れた植物が好き勝手に腕を伸ばし、ささやかに花を咲かせているものもあった。
臨也が歩くたびざくざくと音を立てる芝は野草と交じり合い伸び放題だ。
すっかり夜の帳は落ち、頭上には白い満月がかかる。
立ち込める霧も昼間よりずっと深く、重いものに変わりつつあった。
「とりあえず出入り口を探さないとね」
化け物がいるいないに関わらず、ここで一夜を過ごさなければならない。
周囲を見回す臨也がふと顔を上げた時。
見上げた二階のバルコニーに佇む背の高いなにかとバチリと目が合った。
目が痛むほど白々と輝く月を背景に、目に飛び込んだのは金色の瞳。
生暖かい風に揺られる金色の髪。
顔の作りは人間で、眉目秀麗と喩えられる機会の多い臨也とは違う、
華やかで目を引くタイプの美形と呼ばれる部類だろう。
表情はなく、ただ無言で臨也を見下ろしていた。
バルコニーの縁にかかった5本の指も人間のものに間違いない。
細くも太くもない、均整の取れた長身を模範的なバーテン服が包んでいる。
……………………バーテン服?
作品名:ドラマチック (静雄×臨也/童話パロ) 作家名:鏡柚花