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月光花

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 城壁の一部、子どもがひとりずつ入れる大きさの穴が開いていたためにオルステッドとストレイボウが城に入ることができたという。その穴を出るとちょうどこの庭園につながっていたのだ。そこを通ってオルステッド、ストレイボウはアリシアに会いに来るようになった。
 オルステッドの知り合いの仕立て屋の話や、領地の中の花畑のこと、彼らの通う学校のこと、ストレイボウの魔術のことなど、そんな他愛のない会話をしていたが、アリシアはまるで物語の中のような違う世界の出来事に感じられた。
 だがそれも、貴族から見た視線である。

 ある日、珍しくストレイボウから話を切り出す。オルステッドは剣の稽古があるということで来れず、ストレイボウひとりであった。
「アリシア、その……平民のことはどれくらい王宮で話されているか、知っている?」
「平民のこと? わたしはまだ政治に関われないので、わからないけれど……どうかして?」
「おれは今貴族だけど、おれの――知り合いに平民がいて、暮らしに困っていて……。ルクレチアの近くはいいけれど、地方になると住みにくいって言ってたんだ……」
「そうだったの……わたし、わからないことばかりで……ごめんなさい。その人のことも助けてあげられない……」
「いや、アリシアは将来ルクレチアのお妃さまになるから、そのときは、貴族だけじゃなくてもっと下の身分のことも考えられる王妃さまになってほしかったんだ」
「やさしいのね、ストレイボウ」
 内向的で自分の感情を表に出さないストレイボウだが、アリシアは彼の中にひそむ情け深さを知った気がした。
「あなたが王さまだったら、きっとみんな幸せになれるわ」
 少年の手を取る。自分が言った言葉が何を意味しているか、アリシア本人は気付いていなかったが、にわかに悟ったストレイボウは顔を赤くしてうつむいてしまう。

 童話の中の王子がほしいと思ったわけではない。今のアリシアは純粋に話し相手がほしかっただけなのだ。
 だが、一国の王女と、おなじ年ころの貴族の少年二人。ただの「お友だち」としていられるのはわずかであると、ストレイボウだけがうすうす感じ取っていた。


 あの二人と会うようになってひと月が過ぎたころであろうか。アリシアはいつものように庭園で二人を待っていたが、二人が出入りしていた城壁の穴が補修されていることに気がついた。

 彼らとの接点が、断たれてしまっていた。
作品名:月光花 作家名: