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月光花

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 オルステッドとストレイボウの二人が現れなくなり、アリシアの日々はまた未来の王后としての多忙で退屈なものに戻った。そうして五年の月日が経過していた。

 毎年恒例となっている新規近衛兵入隊のパレードがある。アリシアは入隊者の名簿をチラチラと見ていた。その中に、気になる名を見つけた。アリシアの心は急激に沸き立つ。
 ルクレチア城中庭に、剣術師団、魔術師団各二部隊に別れた新米近衛兵が並び、剣と杖をルクレチア王とアリシアら王族の前でかざし「ルクレチア万歳」と叫んでいた。大勢の兵士の中から、アリシアは見逃さなかった。
 初々しさをいまだ残す金髪の剣士、そして夜の陰を孕んだ黒髪の魔術師の存在を。五年前より逞しくなった二人の少年を。

――オルステッド、ストレイボウ……!
 アリシアは知らず涙を流していた。

***

 外の風に当たりたい、と言ってアリシアは庭園の花園へ来た。供はつけていない。
 あの二人と初めて会った場所……ここで待っていれば、彼らが来るかもしれない。

「こんばんは、姫さま」
「ストレイボウ……」
 彼はひとりだった。いつも傍らにいるオルステッドはいない。
「……その、やせたのではなくて? ちゃんと食事を採っていますか?」
「そうでしょうか。魔術師というものはみな、このような体格にございますよ」
「そう……」
 たしかに以前からストレイボウはオルステッドに比べ、小柄で痩躯であった。剣士と魔術師の違いもあるのだろうが。だが少し頼りなく見えたストレイボウは、五年の歳月で、十五とはいえ落ち着きのある男性に成長していた。幼いころは短くきちんと刈り揃えていた黒髪も、今は魔術師らしく長く伸ばされてウェーブを描いている。
「あなたとオルステッドが近衛師団に入ったなんて、夢のようです。もう会えないと思っていたのに」
「私も会えないと思っていました……。だから、少しでもお近づきになれるように、近衛魔術師団に入ろうと思いました。でも、まさかこんなに早く会えるなんて」
 大人びた口調でストレイボウは言う。なぜかアリシアは胸の高鳴りを禁じ得ない。震えながら、胸の内を告げる。
「待っていたんです」
 ――昔は、言い淀むのはストレイボウのほうだった。だが今は、アリシアのほうが二の句をつぐのに苦労している。おかしなことだと自嘲した。
「来てくれると思って……ここで……」
「参りました……姫を待たせはいたしません……」
 月のわずかな明かりにストレイボウの顔が照らされる。年齢のわりに大人びた、だが陰を纏う相貌。整って冷たくも見えるその顔が、やさしいほほえみを形作る。隻眼の右目が、捉えるようにアリシアを見つめた。
 アリシアの心に、その笑みが月光のようにやわらかく照らされる。早鐘のように打ち鳴らされる心臓の鼓動とは裏腹に、ストレイボウといるこの瞬間にアリシアは感じたこともない安らぎを覚える。熱にうかされたような、そんな……。
「また……来て、くれますか? ストレイボウ……」
「はい……」
 時間がない。あまり部屋を空けては不審に思われる。アリシアはストレイボウの長い黒髪にほんのわずか触れ、うつむいていた。
「では、今日は、これで……」
 はじめてストレイボウの手がアリシアの手に触れる。
「ええ、では、また……」
 名残を惜しみつつも、アリシアとストレイボウは各々の場所へ戻る。
 あのときよりもずっと大きくなった彼の手を思い出す。長い指がためらいがちにアリシアの手に触れていた。触れられた場所がじわりと熱く感じられるのは錯覚だろうか。
「ストレイボウ……」
 ひとりの部屋で、そっとつぶやいた。あまりに甘い声音に自分自身驚くアリシアがあった。
作品名:月光花 作家名: