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Lesson

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Epilogue


 約束の六月九日金曜日午後三時、時間通りに部室を訪れた坂上は、扉を開けた途端、十二個の瞳に一斉に見つめられた。
 集まったのは六人。
 見るからにスポーツマンといった体格の男子は、三年の新堂誠。
 対照的に華奢で、白い首を晒し俯きがちにしているのは、二年の荒井昭二。
 両手を膝に乗せ、長い睫毛に縁取られた目を机に向けているのは、三年の岩下明美。
 腕を組んで踏ん反り返っているのは、三年の風間望。
 垂れ落ちる汗を拭いながら緊張した面持ちで座っているのは、二年の細田友晴。
 そして、一番奥の席で肘をついてつまらなそうにしているのが、一年の福沢玲子。
 
 その姿を確認して、坂上はやや顔を強張らせた。
 日野が残した企画メモに記されていた彼らについて事前に調べたところ、そんな名前の生徒は鳴神学園に在籍していなかったからだ。
 正直、誰も来ないのではないかと考えていた坂上は、空いている席に腰掛けながら、どうしたものかと考えた。
 すると、荒井が顔を上げて坂上を見つめた。
「あなたが、七人目ですか」
「あ、いえ。申し遅れました、僕は新聞部員の坂上修一です。今日は皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
 坂上は一度立ち上がって挨拶すると、座り直して六人を見回した。
「……七人目の方は、遅れて来られると思います。ですから、先に皆さんにお話を始めていただきたいのですが」
 声が震えないよう、心を落ち着けながら呼びかける。すると、一人が口を開いた。
「じゃあ、僕から話すよ」
 風間望だった。
「では、お願いします」
 坂上が促すと、風間は「それにしても暑いねぇ」「君、飲物ぐらいは用意するべきなんじゃないかい?」などと文句を言いながら話し始めた。
 
 
 六人目の新堂が語り終えると、室内に沈黙がおりた。
 語り部達の視線を感じながら、坂上はもう一度企画メモに目を落とす。
 語り部のリストの一番最後には、見覚えのある整った字で、「日野貞夫」と書かれていた。
 
 日野の正体を知った後も、坂上は毎日居残って日野を待った。しかし日野が現れる事はなかった。
 ……確かに、日野が故人である事は少なからずショックだった。だが、このままもう二度と日野は姿を見せないのではないかと考えると、その方がよほど怖かった。
 
 永遠とも思える数分、坂上は待った──日野が来てくれることを祈りながら。
 やがて扉が開き、日野が現れた。坂上は思わず立ち上がった。
 
「日野先輩!!」
「坂上……来てしまったのか」
 日野は苦笑すると、坂上に着席を促し、最後の空席に腰を下ろした。
「……もう、全員話し終わった後だよな。最後の話を始める前に、坂上、聞きたいことがある」
「何ですか?」
「……お前は、俺達が何なのか知っている筈だ。にも関わらず、何故集会に来た?……俺が怖くはなかったのか?」
 その問いに、坂上は頭を振った。
「怖くなんかありませんでした。僕はただ、もう一度日野先輩……あなたに会いたかったんです。そして、御礼を言いたくて……」
「……御礼?」
「僕なんかが、部長や他の先輩方に認めてもらえるようになったのは、日野先輩がコーチになってくれたおかげです。本当に、ありがとうございました」
「……」
 坂上の言葉を聞くと、日野は辛そうに顔を歪めた。しかしすぐに真顔に戻ると、おもむろに七話目を語り始めた。
 
「──これは、俺が幼い頃に経験した話だ。
まだ、小学校にも上がる前に、俺はよく近所の公園で遊んでいた。
決まった遊び相手がいたわけじゃない。その時公園にいる子供の中から仲間を調達していたんだ。
だから、日によってメンバーが違う。その日限りの友人ってのもざらにいた。たまに気が合う奴とは、明日の約束を交わすこともあったけどな。
 
あの日のメンバーは、全員その日が初対面だった。俺を含めて、男が五人に女がふたり。ちょうど七人だったな。
しばらく遊んでいると、ひとりが公園で遊ぶのは飽きたなんて言い出した。それで公園の外にまで足を伸ばし、たどり着いたのが此処──そう、鳴神学園だったのさ。
 
今でこそ不気味に見える旧校舎だが、子供の目にはその古臭さが逆に魅力的に見えた。
俺達は早速旧校舎に忍びこんで、鬼ごっこを始めたんだ。
その鬼ごっこは、まあルールこそオーソドックスなんだが、変わったところと言えば鬼が二人いることだ。鬼が協力して逃げる五人を自陣に捕まえ、全員が捕まったところで、今度は最初に捕まった二人が鬼になる。ただ、逃げている五人は鬼の目を盗み捕まった奴を助けることも出来るんだ。
 
……じゃんけんで逃げる側になった俺は、しばらく逃げ回っていた。そのうち他の一人と一旦合流したんだが、そいつの様子がおかしい。どうしたんだって聞いたら、しきりに首を傾げながら、
『鬼が一人増えてる』って言うんだ。
何でも、逃げてる奴の一人が、知らない奴に捕まって引きずられていったらしい。
 
…実は俺も、おかしいとは思ってたんだ。さっき、そいつの泣き叫ぶ声を聞いたからな。鬼に捕まったんだろうと思ったが、そのぐらいであんなに喚くなんて大袈裟だな、ってな。
 
俺は不思議に思いながらも、合流した奴と分かれた。その直後だな。恥ずかしい話だけど、腹の調子がおかしくなったんだ。旧校舎のトイレが使用できないのは知っていたから、窓から外に出て新校舎の方のトイレを借りたんだ。もちろん、誰にもみつからないように注意しながらな。
 
用を足した後、宿直室の前を通り掛かった。すると、子供がすすり泣く声が聞こえて来たんだ。
覗いて見ると、俺より小さな子供が、縄で縛られて、口にガムテープを貼られてもがいていた。
 
俺はびっくりしてな。咄嗟に縄を解いてやったよ。それから、静かに泣いてるその子供の手を引いて、仲間にこの事を知らせようと旧校舎に向かったんだが……窓によじ登ろうとして、その下にさっき合流した奴が倒れているのを見てしまったんだ。両耳から血を流して、白目をむいて、な。
我ながら、叫ばなかったのは奇跡だと思うよ。俺はいまだに泣いてる子供の口を塞いで抱き上げて、その場から逃げ出した。
……しばらくはショックで口も聞けなかった。だが、助けた子供はちゃんと家に送り届けてやったんだよな。あの状況でよくできたと思うよ。
 
自分が見たことを人には話さなかった。というのも、ショックで忘れていたからな。思い出したのは十数年後、鳴神学園に入学した時だ。
……俺は過去の新聞を調べて、旧校舎で起こったあの事件の真相を知ろうとした。だが、新聞には一切載っていなかったんだ。
そんな筈はない。確かにあの時六人の子供が殺された筈だ。
俺は新聞部の活動の傍ら、OBやOGにも話を聞いて情報を集めた。
そしたらだ。ちょうど事件があった時期に、弟や妹、兄や姉が失踪したって奴が、六人出てきたのさ。
 
新聞に載らないのも当然だ。六人は跡形なく喰われていたんだからな。この旧校舎に巣くう、得体の知れない何かに。
 
……福沢玲子は、まず腕を喰われた。細田友晴と風間望は、それぞれ片足を。新堂誠は、耳をもがれてショック死した。荒井昭二は、左肩を。そして岩下明美は、喉を引き裂かれた。
 
作品名:Lesson 作家名:_ 消