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斉藤君の殺人クラブ観察日記

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番外編:福沢玲子の斉藤君観察日記


「おかしいと思いません?」
 
 新聞部の部室に押しかけ、オペラグラス片手に肘をついて不機嫌そうに悪態をつく福沢を、日野は後輩達が仕上げた原稿から目を離してちらりと見遣った。しかしすぐに視線を戻して、気のない返事を返す。
 
「何がだ?」
 
 日野は部活の無い日でも毎日のように部室に訪れるが、それはきまぐれに訪ねてくる殺人クラブのメンバーの相手をする為では無い。部活熱心な坂上がいつ顔を出しても、すれ違うことなく常ににこやかに迎えるためだ。
 
「決まってるじゃないですか、斉藤ですよぉ。あの日以来、前よりも坂上君にべったりするようになったかと思ったら、ここ2、3日は急にてのひら返したみたいに坂上君をひとりにして。何か企んでるんじゃないですか、アイツ!」
「へぇ。よく見てるんだな。そんなにあいつの家に行けなかったのが悔しかったのか」
「当たり前じゃないですかぁ!せっかく殺る気まんまんでボウガンのお手入れしてたのに、直前に風邪ひいちゃったんですから!日野さんは悔しくないんですか?三回行って三回とも返り討ちにされたんでしょ?」
 
 福沢がそれを口にした途端、原稿をめくる日野の手が止まった。
 
「最後の日なんか、風間さんが骨折して、新堂さんは顎が外れたんでしたっけ~?あんな素人相手に不甲斐なさ過ぎますよぉ。キャハハ!」
「福沢」
「ハ…?」
 
 日野の手の中で赤ペンがバキリと折れた。まるで血のように濡れ光るインクまみれの拳を震わせて、日野は福沢を見据える。
 
「ひっ!?日野様……」 
 逆鱗に触れたらしいと悟った福沢は、青くなって椅子ごと後ずさった。
 
「……俺だってな、あいつらには呆れ果ててるんだ。荒井といい、新堂といい、風間にいたっては使えなさすぎて、本来なら殺処分してやりたいところだよ」
 
 口元は穏やかな微笑を浮かべながら、日野の眼には抑えきれない怒りが燃えている。
 
「もうあいつらのフォローに疲れたんだ。坂上から離れたんなら好都合だな。斉藤からは手を引く」
「え!?有り得ませんよぉ!だってあいつ私以外の人達は名前も顔もわかってるんでしょう?このまま放置なんて危険過ぎますって!」
「斉藤には何もできないさ。俺達が殺人クラブだという証拠を持っているわけでもないんだからな。逆にいえば、これ以上下手に手を出したら証拠を提供する羽目になるかもしれん」
「……ずいぶん弱気ですね。日野さんらしくないですよ」
「何とでも言え。とにかく斉藤と遊ぶのはもうやめだ」
「……」
 
 納得が行かないとばかりに、福沢は口を尖らせた。しかし日野はもう話は終わったと、インクで汚れた手を拭いつつ作業を再開する。
 福沢はそんなリーダーをしばらく眺めていたが、やがてパッと表情を明るくした。
 
「じゃあ、斉藤がまだ坂上君のことが好きで、私達に有害な存在だってことを証明したら、また斉藤を狙います?」
「……そうだな。俺の坂上に手を出そうとするなら、生かしておくわけにはいかない」
 
 日野の答に満足げに笑って、福沢は胸を反らせた。
 
「じゃあ、夏休み前に証明してみせますよ!」
 
 その様子に日野は一抹の不安を感じて眉を寄せた。
 
「随分と自信満々だな。何をする気だ?
「それは見てのお楽しみですよぉ!じゃあ私は準備があるので、これで失礼しまぁす!」
 
 軽快な足取りで去っていく福沢の背中を見送り、日野は顔を顰めた。
 
 
 翌日の放課後、福沢はいつもなら寄り付きもしない場所──トレーニングルームを訪れた。昼休みに新堂が斉藤のガードがないのをいいことに坂上を昼食に誘い、さらに放課後の約束までとりつけたのを知っていたからだ。
 
「あれ?福沢さん。こんにちは」
 新堂のコーチングを受けつつ身体を鍛えていた坂上は、福沢の姿をみつけるとにっこりと笑いかけてきた。
 
「何しに来たんだよ?」
 邪魔が入るかもしれないことは想定していただろうに、新堂はあからさまに顔を顰める。
 
「ちょっと坂上君に用があって。そうだ新堂さん、顎の調子はどうですかぁ?」
 からかうように小首を傾げてやると、新堂の眉間の皴はさらに深まった。
 
「え?新堂さん、顎、どうかしたんですか?」
「あ、ああ。ちょっとな。たいしたことじゃねぇよ。で、坂上に何の用だ」
 事情を知らない坂上は心配そうに新堂を見上げるが、話したくない新堂ははぐらかして福沢に水を向けた。
 
「そうそう、坂上君、ちょっといいかなぁ?」
「えっ?何ですか?」
「いいからいいから。更衣室借りまーす!」
「なっ、待てよ福沢…おいっ!」
 呼び止める新堂を無視して、福沢はトレーニングルームの隣にある更衣室に坂上を無理矢理引きずりこみ、しっかり施錠した。
 
「これでよし、っと」
「あの、福沢さん?」
「いきなりごめんね坂上君。お願いがあるんだ!」
「はぁ、僕にできることでしたら…」
 控えめに先を促す坂上に、福沢は満面の笑みを向ける。
 
「これから一週間、放課後だけ制服交換してほしいの」
「……え?」
 どんな事を頼まれるのかとびくびくしていた坂上は、予想外の言葉に唖然とした。
「私、一度でいいから男子の制服が着てみたかったんだぁ。でもそんな事、坂上君くらいにしか頼めないし……いいよね?」
「は、はぁ……でも何でそれで僕も福沢さんの制服を着なくちゃならないんですか?」
「それは、私が見たいから!」
「ええっ?」
 
 とまどう坂上の隙をついて、福沢は坂上のシャツのボタンに手をかける。
「ちょっ、福沢さん!」
 坂上は真っ赤になって抵抗するが、福沢が眼を潤ませて「ダメ…?」と呟くと、あっさり根負けした。
 
「……わかりました。一週間だけなら」
「やったぁ!じゃあ、その恰好で色々やりたいことがあるから、着替えたらそのまま坂上君の予定こなして、それが終わったら校門の前で待っててくれる?そしたら一緒に帰ろうね!着替えは私の家でしてもらうから!」
「……はぁ、わかりました……」
 一度頷いた以上、それは嫌だと言えない坂上は、結局福沢に剥かれて、替わりに福沢の制服を着せられる羽目になった。
 
「じゃあ仕上げにこれ被って!」
「え?何でかつらまで?」
「だって坂上君、そのままだと女装して喜んでる変態だと思われちゃうよ?いいの?坂上君可愛いから、髪が長いだけで十分本物の女の子に見えると思う」
「……付けます」
 どれほどの違いがあるものかとは思うが、少なくとも知り合いに見つかって軽蔑されたくない。坂上は渋々ウィッグを受け取り、福沢の指南を受けつつ何とか装着した。
 
 
「な……さ、坂上!?」
 更衣室から出ると、扉の前をうろうろしていた新堂と早速鉢合わせた。女装した坂上を見るなり、新堂は顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせる。
 
「す、すみません新堂さん、見苦しくて…」
 何を勘違いしたのか頭を下げる坂上にフォローもできないでいると、坂上の制服に身を包んだ福沢がにっこり笑って坂上の頭を撫でた。
 
「そんなことないよー、すっごく可愛いから!ね、新堂さん?」
「あ、ああ。だな…悪い、坂上。びっくりしただけだ。似合ってるぜ?」
「それはそれで複雑なんですけど……」