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【ガンダム00】下弦

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 コンテナを出て直ぐ、ロックオンは室内との気温差に身震いした。けれど今さら中に戻れる筈もない。仕方なくオアシス内を歩き、中心部の湖の淵に腰を下ろした。
 水面にはゆらゆらと下弦の月が頼り無く映し出されていた。
 思い出されるのは、己の過去の苦い記憶だった。
 (分かっている、これが俺が望んだ道だと。後悔も悔いもない。)
 けれど分かっていても、時折抑制しきれない感情や不満が露呈してしまうのだ。
 昨日の叫ぶ少年の映像が、鮮明に脳裏に蘇る。
 きっとあの少年の親は、兄弟は、友は、俺のことを憎んでいるだろう。いや、彼だけじゃない。戦線に呑み込まれた全ての人間が、その関係者が、何千何万という人間が、憎み恨んでいくのだ。――事実俺がそうだったように。
「……ハッ」
 乾いた笑いが込み上げる。
 武力を武力で抑制する、本当にとんだ茶番劇だ。
 自分が恨み憎んできた過去を、今、己の意思で、自ら同じように生きているのだ。
 ―――奪う側の人間として。

 ロックオンは何度か笑いを漏らし、再び水面に映る月を見た。
 そして息を呑んだ。
「そんな格好で外に出てどうする。体調管理もマイスターの仕事だ」
 水面に映るティエリアは、ロックオンに上着を差し出した。
 ロックオンは振り返り、ティエリアの姿をを直接自分の目に映した。
「あ、ああ。悪いな」
 呆気にとられつつ上着を受け取る。
 しかし良く見ると、言った当人の方がよっぽど寒そうな格好をしていた。
「お前のほうが寒そうだな」
「……あまり寒さを感じない」
 言葉の意味を深く追求するほど野暮ではない。ロックオンはありがたく上着を羽織ると、ティエリアに笑みを送った。その笑みは彼のいつもの調子を取り戻していた。
 ティエリアはロックオンを見つめた。
「……何?」
 視線を外し、背を向ける。そして言葉を言い放った。
「マイスターはヴェーダが打ち出した計画を精確に遂行することが使命だ。余計な甘さは不要、二度と足を引っ張らないで欲しい」
 冷徹な言葉に胸がチクリと痛む。いつもながらにティエリアの言葉は率直で、揺るぎがない。
「……ああ、分かってるさ」
 ――分かってるとも。
 胸中で復唱し、ロックオンは苦笑した。
「迷惑かけて悪かったな」
「分かっていない」