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レイ・イチ ~けったいなお人は好きですか~

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日常的追いかけっこ



最近部屋から自分の物がなくなる気がする。

イチは首を傾げた。
気のせいだろうか・・・?
いや、でも無くなってるような気がするんだが・・・。

寝起きの頭でぼんやり考えながら服を着替えた。
そして上着を羽織り、下のスパッツをはこうとして気がついた。

あれ?
昨日ここに一緒に準備していたはずなんだけど?
ナナミが間違えて洗濯に持っていっちゃった?
まずいよ。替えのスパッツこそ今洗濯中だった。
しかも雨が続いていたせいで洗い物が溜まっており、今1枚も替えがない。

「くそー。寝巻きはただ羽織って前を綴じるだけのもんだしなー。どうすっかなー。」

かといってこのままずっと部屋に篭ってもいられない。
幸い上着は同じようなもので丈が今着ているものより少し長めのものがもう1枚ある。とりあえずそれを羽織って急いでナナミを探すか・・・。
下をはかず上着だけだと、ちょっとつなぎのスカートみたいで微妙だが、下着も見えない長さだし、諦めよう。
イチはブーツを履き部屋を出た。

・・・しかしやはり視線が痛い。
う・・・。
笑われているんだろうか。
少し赤くなりながらも、”ナナミーっ”と呼びかけながら彼女を探した。

勿論視線を感じていたのは間違いではなかった。
笑いはしていなかったが、いったいどうしたんだろうと不思議そうにイチを見る人や、妙にドキリとなって、そんな自分にギョッとなっている人や、はなからイチのファン(?)で、その姿に熱い視線を送っている人などさまざまだった。

「おっはようん、イッちゃんっ。」

イチがきょろきょろナナミを探して油断していた隙にレイが後ろからイチにギュッと抱き付いてきた。

「んぎゃっ。ちょっ、離せ変態っ。」
「ひっどーい。変態はないよねん。レイはただイッちゃんが好きなだけなのにい。」
「朝っぱらからふざけんなっ。くそっ離せってんだっ。」
「んーつれないなあ。・・・あれん。なんか今日のイッちゃん・・・ちょっと違う?」

とりあえず離れてイチを見たレイが首を傾げた。そしてポンと手をたたいた。

「やだなん、イッちゃんサービス過剰だよん。それはそそられるけどー、せめてレイの前だけにして欲しいなん。」

ポッと頬を赤くしてみせてレイが言った言葉にブチ切れそうになるイチ。
かろうじてグッとこらえて搾り出すように言う。

「・・・誰がんな気持ち悪いサービスすんだよ・・・。下の服がねえんだよバカ。あー、ナナミ見てねえ?ナナミが洗濯に持ってったんかも・・・。」

一瞬間があってからレイが言った。

「・・・ふーん。あーと、ナナミちゃんねえ、残念だけど見てないなあ。」

ふとレイの気が別の方向に逸れたような気がした。
ん?と思ったが自分は今はそんな事よりもナナミだと思い走り出した。

「あーじゃあいいわ。ちょ、ナナミ探すから、行くな。」
「あー、うん。じゃあねん。」

走りながら手を振る。
何となくレイの様子が変わったような気がしなくもないが、まあどうでもいいか、と思いながら。
一方レイはニコニコとイチに手を振り返した後、さてと呟きながらスッと移動した。

「おっと、逃がさないよ?お前ここんとこどうもイチの周りうろうろしてるね?何伺ってんだか知んないけどさあ?・・・後、イチの部屋にもちょろちょろ侵入して物盗ってんじゃない?服盗ったのもお前だろ?残念ながら現場は見てないんだけどね、素直に吐いといた方がお前の身の為だよ?お前はそうだね、ストーカーってよりもチンケなこそ泥ってとこかな?盗ったもん、どうせ闇で売りさばいてんだろ?」

陰に潜んでいた奴の背後に素早く移動し、そいつの腕を捻る。

「う・・・バレたか・・・と、いや、その、えーと、俺はただ単に兄弟と仲良く・・・イデデデデ・・・っ、す、すいませんっ。」

ホイだった。

「いやあ、兄弟はえらい人気があるみたいでよお、その、所持品が売れる売れる・・・ヒイッ。」

妖艶な紅い瞳は今は、例えるなら悪魔の目のように恐ろしく、妖しくホイを見据えていた。

「・・・今回だけは見逃してやる・・・。盗った服を戻して、今後一切イチの周りをうろつくな?また繰り返すようなら、いくらお前が宿星だといえども容赦しない。」
「わっ分かりましたあっっ。すっすいませんっ。」

いくらホイでも引き際は承知している。
この男だけはヤバイ。
絶対、まずい。
青くなって転がる様に駆け出していった。

後日イチが言っていた。
そういえば物がなくなるって思ってたんだけど、最近はそう感じなくなった、と。

「あれえ、イッちゃん、もうはいちゃったのん。残念ー。服、ナナミちゃんが持ってたあ?」

その後、歩いているイチの姿を見つけたレイが駆け寄って話しかけた。

「あ?ああ、いや。部屋戻ったらあった。悪い、俺が気付かなかったみたいだ。」
「ふーん、そうなんだー。うん、下はいてないイッちゃんはそそるけど、やっぱりその格好だねん。はきたくなければ今度レイの前でだけしてくれればいいよん。いくらでも歓迎するからあ。」

レイは指を唇につけてうふっと微笑んだ。

「あーもー変な事ばっか言うなっ。つか、いっそ、そば来んなっ。」

イチはギャッと叫んで逃げた。

「あーん、イッちゃんなんで逃げるのおー?追いかけっこお?」

すばしこいイチはもう随分向こうの方へ走って逃げていくところだった。
ニッコリ笑ってレイも逃がさないよんとばかりに追いかけはじめる。

「イッちゃん追いかけっこもいいけどー、レイはもうちょっとスキンシップも楽しみたいなー。」

息を乱すこともなく、あっという間に差を縮めながらレイが楽しげに言う。

「イギャッ。も、もうそんなとこまでっ。くっ来んなあっ。遊んでんじゃねえっ。純粋にお前から逃げてんだよっ。」

イチは振り返り差を縮められている事にあせりながら必死になって逃げながら叫ぶ。

ホールをバタバタっと掛けていく二人を見ながらルックは呆れた目でため息をついた。

「・・・またやってる・・・。バカじゃないの・・・?」

もはや恒例になりつつある光景である。
周りでも、ああまたか、というような感じの暖かい目で見守られていた。
イチからすればほんわかでもなんでもなく、むしろ助けろという気持ちでいっぱいだったが。

「もう追いついちゃうよん。どーするうー?」
「ギャーッ、やだやだ来んなーっ。」

必死の軍主と余裕の英雄の日常的光景だった。