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レイ・イチ ~けったいなお人は好きですか~

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お花見にて



きっかけは投書されていた文だった。

ここいらで皆で花見でもしませんか?

「というわけでシュウ。花見をしようと思ってんだよな。」
「・・・何がという訳だかさっぱりなんだが。いきなり入ってきていきなりそれか。」
「いーじゃねえかよー、細かい事は気にすんなよなー。ほら、城の裏の桜がもうすぐ散ってしまうだろ。その前に皆でこう、ぱーっとやろうぜ?」

ね?とイチは懇願する。
シュウはため息をついた。

「まったく・・・。今がどういう状態か分かっているのかお前は・・・。」
「分かってっけどよー・・・たまにはいーじゃんかー。なんだよーシュウのケチー。」
「ダメだとは言ってないだろ。」
「えっ、じゃあいいの!?」
「・・・まあ、そうだな。いいだろう。今のところ向こうが攻めてくるという情報も入ってきていないしな。」
「やった、シュウ、サンキュー。よーし、じゃあこれから準備だなっ。お弁当沢山つくってー、あ、飲み物もな。シュウは召集をかけてくれよな。」

イチがニコニコしながら勢いよく執務室から出ていった。

「ふう・・・。ほんとにあいつは・・・。まあ息抜きも必要だしな。」

結局はシュウもイチには甘かった。

お祭り騒ぎが大好きな者ばかりだったので、けっこうな参加者だった。
その為食べ物や飲み物を準備する時間が多少かかったので、急遽桜の木の辺りに明かりを灯し、夜桜を楽しむ事になった。

「たまにはこういうのもいいもんだな。」

フリックが、明かりに反応しているかのようにボンヤリと光って見える桜を見ながら言った。

「まあそうだが、俺にはこれさえあれば何だって楽しめるぜえ。」

その横でビクトールが旨そうに酒を飲む。
フリックはまったく・・・と呟きながら自分も酒を口にした。

向こうではサスケやチャコ、ミリーやメグ等、同じような年齢の子供達が集まってお弁当やソフトドリンクを楽しんでいたが、そこにナナミがいかにも手作り感溢れる団子を持ってきたため、軽く混乱に陥っている様子であった。

イチも最初はそこで一緒にお弁当を食べていたが、案の定ルックが参加していないのに気付いてその場から離れ、いつもの如く石板前にいたルックを本人の意思をまるっきり無視して無理やり連れてきたところだった。

「ちょっと・・・別に僕は花にも団子にも興味ないから。というか騒がしいのは苦手だよ。」
「えー、ルック、お前さあ、花の十代を無駄に過ごす気かよ。せっかく美形に生まれたくせに全然いかさねえしよ。石板いじりなんか年くってからすりゃあいいじゃねえかよ。」
「僕は年とってもこのままだっての。・・・それよりあの石板をその辺の盆栽みたいに言わないでくれる・・・?」
「やっほーん。遅くなっちゃったー。イッちゃん寂しかったん?」
「いや、それはない・・・。っていうかウザイ、くっつくなバカ。」

いつもの如くいきなり現れた英雄はニコニコとイチに抱きつく。
イチはさも鬱陶しそうにそれを引き剥がす。

ルックが呆れたように言った。

「・・・君散々逃げ回ってるくせに、わざわざコレも呼んだの・・・?」
「えーコレなんて酷いよー?ルックん。」
「いや、まあせっかくの花見なんだしよ、皆で楽しんだほうがいいだろ?」
「さっすがイッちゃん、レイ嬉しいー。で?ルックんと何話してたのん?お互い盆栽について語るような年じゃないよねん。」
「当たり前だろ。ルックがさー、参加もせずに相変わらず定位置にいるから無理やり連れてきたとこなんだよ。こう、もうちょっとはしゃげばいいのにって思うんだよなー。」
「君に関係ないだろ。顔だけはもう出したんだし、もう戻るよ。」
「えーっ。ちょーレイも何か言ってくれよ。」
「んー。あは、じゃあ一瞬だけでも飲み食いに付き合いなよん。それで解放っ。」

レイがニッコリと紙コップを差し出した。
いつの間にそんなもの持ってたんだろとイチは首を傾げる。

ルックはため息をついて、黙ってそのコップを奪い取り、さっさと終わらせようとガブッと飲んだ。


・・・未だかつて、ルックがあんなに楽しげにはじけているのを見たことがないと、誰もが証言した。
まずあのルックが笑いこけている時点で、世紀末かと思う者もいたくらいである。


花見は大盛況のまま終了した。
ちゃんとした片付けは明日に、と簡単な片付けだけを終えてからイチが聞いた。
レイの自宅までは距離がある為、イチは遅くなるとこの城の宿を無料で提供していた。

「レイ、今日はこの城に泊まってくんだろ?宿はとったんか?」
「あー、うんとったよん。でもん、レイほんとはイッちゃんの部屋がいいんだけどなん。」

レイが指を口に当てて首を傾げて言う。
イチは冗談っ、と即座に否定する。

「ふざけてばっかのお前泊めたら何されるか分かったもんじゃねえ。」

イチ的には顔に落書き程度を想像していたが。
レイが残念そうに言う。

「ナニすんのはそりゃまあ当然だけどん。ま、じゃあ今度ねん。」
「今度もねえ。それにしてもルックには驚いたよな。お前何飲ませたんだよ。」
「あーあれ。火酒とよばれるウォッカをストレートでねん。あれって無色無臭だから一見分かんないんだよねー。」
「・・・。つかいつの間にそんな酒手に持ってたんだ?」
「あは。ほんとはレイ、イッちゃんに飲ませて前後不覚になってもらったところをねー・・・。」
「っ帰れーっ。」


翌日イチはルックの様子を見に行った。
あんなに強い酒で酔っ払っていたルックだが、もうきちんと石板の前で立っていた。

「あールック・・・?その、大丈夫・・・?」
「・・・。」
「怒ってんの?ごめんってばー。ねー。」

ルックは怒って無視している訳ではなかった。
ただ昨日、普段しないような表情をしたせいで顔が筋肉痛の為動かすのが辛いだけであった。