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レイ・イチ ~けったいなお人は好きですか~

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暑中見舞い



「暑ちい・・・。」

イチは前をはだけさせ、書類の束でパタパタと仰いだ。

ここは執務室。
イチはシュウとともに書類の処理を行っていたが、あまりの暑さに仕事も停滞しがちであった。
窓を開けていても風すらこない。
足元には冷たくした水を張ったタライを置き、足をつけていたが、すぐにぬるくなってしまう。

「だらけすぎだ。」
「そんな事言ってもさー、暑ちいんだもん。今日は特に暑くねえ?もう俺、頭まわらねえよ。なんでシュウはそんな涼しげなんだよ。」
「別に涼しい訳ではないがな。お前がだらけすぎているんじゃないのか?・・・まあいい。今日はこれくらいにしておこう。」

なんやかんや言っても、シュウもイチに甘い。

「マジで?やったー。俺限界。」
「分かったから前くらいしめろ。」
「えー、無理。いっそ裸になりたいくらい。」
「・・・それはやめておけ。」

シュウはいろんな意味を込めてつぶやいた。
イチも、まあそこまではさすがにな、と言いながら立ち上がり、書類を整えると嬉しそうに、じゃあ、と手を振って出て行った。

「・・・ここも暑ちい・・・。」

明るいうちからたくさんの人間がたむろしている酒場でイチはつぶやいた。

執務室から出たあと、冷たい飲み物でも飲もうと、酒場にやってきたイチ。
相変わらず前をはだけさせたままぼんやりどこを見る訳でもなく冷えたジュースを飲んでいた。
先ほどよりさらにまいっている様子であった。

普段やんちゃな少年であるイチがけだるげにしている様子は、なぜかその周りにいた人間を落ち着かなくしていた。
だるそうな顔も、伏せた眼も、ぼんやりと頬杖している様子も、はだけた服からのぞく、日に焼けた小柄な体も、なぜか妙に色気を感じさせていた。

「イッちゃんっ、見ぃつけたん。」

相変わらずな某英雄は、どこから現れたのか、ギュウッとイチに抱きつきながら言った。

いつもなら過剰なほど反応するイチも、今日はだるそうに目だけチラリとレイを見ながら鬱陶しそうに言う。

「・・・くっつくな・・・暑い・・・今すぐ離せ・・・。」
「・・・イッちゃん・・・。ってあーん、もう。何ー?おいしそうすぎるん。」

ショックをうけたように見えたレイであるが、違う意味でショックをうけていたようである。

「って、何言ってんだバカ。・・・今ので少し寒くなった。」

イチがさも嫌そうに言ってレイを振り払う。

「相変わらずつれないんだからん。とりあえずこんなとこいても暑いだけだしー、仕事ないならレイんとここない?」
「なんで?」
「もうイッちゃんほんとそっけないねー。あ、そうそう、なんでかっていうとさ。レイんとこなら家の中割と涼しいしね、おいしい氷菓子あるよん。」
「行くっ。」

即答だった。

ニッコリしたレイのあきらかになんか企んでね?的な表情には何一つ気づく事がないほどいまのイチは暑さにまいっていた。
周りのレイをよく知る者の間では、絶対ろくでもないことしか考えてないであろうと気づいていたが、レイの笑っていない笑顔で見られてとりあえず青く俯く。

「じゃあ、ルッくんに送ってもらおうねん。あ、その前に、ちゃんと前、とめてね。」
「え、なんで?シュウにも言われたな。別に俺男なんだし、いいじゃん。」
「だーめ。氷菓子が欲しいなら、前はとめることー。でないとレイ、困っちゃうからねん。」
「??相変わらず何言ってんだ?まあ、分かったよ、とめりゃいーんだろ?ほら。んじゃ、行こうぜえ。」

不思議な顔をしながら前をとめたイチに対してレイはニッコリほほ笑んだ。

・・・他のやつらに見せるなんて絶対我慢できないし、自分もある意味我慢できないからね。

周囲ではそういったレイの心の声が聞こえてきそうだった。

2人が出て行く様子を、特にイチに対して無事を祈りながら周囲は黙って見送った。
そっと合掌しながら。

「・・・なんで僕がそんな理由で力を使わないといけないのさ。」
「えー、いいじゃん別にー。あ、そうだ、ルックも行こうよ。」
「・・・行かない・・・。」

イチに誘われたルックは、めんどくさいという気持ちと、レイの笑顔に気づいて完全否定した。

「なんだよ、相変わらず付き合い悪いな。」
「まあ、いいじゃない、イッちゃん。行かないって言ってるんだしー。とりあえずルッくん、いいから送ってよん。ここの軍主様が暑さで倒れそうになってるとこをレイが助けたいって言ってんだからあ。」
「助ける・・・?襲うのまち・・・げほん。分かったよ、やればいいんだろ、やれば。帰りは知らないよ。レイ、あんたが責任を持って送り届けてよね。」

レイの表情に気づき、途中でせき込みつつ、ルックは同意した。

喜ぶイチを生温かい目で見送りつつ、転移魔法を使って2人を送った後、ルックはそっと合掌した。


イチはモノにつられてはいけませんという言葉をこれほど理解した事はなかったかもしれない。

レイの事は好きだが、こういう奴だという事を失念していた。
これからは暑さにも精進して頑張ろう・・・イチは妙な決意を抱きつつ後日城に戻ってきた。

周囲の生温かい目にはさすがに気づかなかったが、シーナがお疲れーと言いつつ渡してきた痔の薬を見ると、真っ赤になり、そのままシーナに思わず紋章を使い攻撃してしまった。

イチはその後しばらく部屋にこもって出てこなかったらしい。