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レイ・イチ ~けったいなお人は好きですか~

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いたずらしちゃうぞ



イチは真面目な性分だった。

仕事も真面目にこなしたし、もちろん行事だってきちんとこなす。
むしろ遊びめいた行事ごとはまだ少年であるやんちゃなイチにとって大好きであった。

「春は花見しただろー、んで夏は七夕とー花火っ。こないだはお月見もしたしな。後は年越しまでなーんもねえのな。」

チェッと面白くなさそうに書類にサインしながらイチは呟いた。
シュウの執務室で事務作業をすることもあれば、今こうしているように自室ですることもあった。

その作業を見ながらお茶を飲んでいたレイが、あれ?というように言った。

「んー?イッちゃん、まだハロウィンだってきてないし、クリスマスだってあるじゃない。」
「ハロ・・・?なんだそりゃ?クリスマスは聞いたことはあるけど・・・それだっていまいち何なのかよく知らねえけどな。」
「へえー、イッちゃんって何ていうかー古風?ハロウィンってのはねん・・・」

レイがハロウィンの説明を始める。
イチはそれを聞いてわくわくしたように興奮しだした。

「へえっ。何かおもしろそうだなっ。つかもうすぐじゃねえか。よし、そうとなればシュウに許可もらってー、んー後は知らねえ奴多いだろうし、説明書きを幾枚かその辺に貼り付けてー・・・」
「あーん、もう、イッちゃんって可愛いんだからん。」

うきうきしだしたイチを見て、レイがギュウと抱きしめる。

「ギャ・・・あーもう、離せっ。ちょ、そんなことより早速準備始めようぜ!?」
「・・・そんな事・・・。」

ぐいっとレイを引き離し、すでに上の空のイチをレイは物足りなげに見る。
イチはそれもお構い無しに、じゃ、シュウのところに行ってくるとにこやかに部屋を出て行った。

「・・・そこまで嬉しがってくれんのはこっちとしても嬉しいけど・・・うーん、微妙・・・?」

ぽつんと部屋に取り残されたレイは呟いた。

「・・・ま、いいか。ふふ、当日、楽しみだねん。」


ハロウィン当日。

城は盛大な騒ぎだった。
元々お祭り好きが多い軍団である。戦うときは戦う、遊ぶときはとことん遊ぶ、をモットーに何事にもイチを筆頭に全力で挑む輩ばかりだった。

城内はカボチャやおばけやお菓子が飾りつけられ、いたるところにジャック・ド・ランタンが置かれて火がともされていた。

そしていたるところで色々な仮装した人々がトリックオアトリートと言ってはお菓子を貰ったり悪戯をしかけたりしていた。

「コレ見てコレ。俺が作ったんだぜ?凄くね?」
エヘンとばかりに得意げにイチが自分の耳としっぽを触る。

シュウは許可したものの流石に仮装はしていなかった。
お前もしろよなーとイチはぶうぶう言ってみる。

「何だその格好は?猫か?」
「違げーよ、狼男だよバカ。猫だったら化け物でも何でもねえじゃねえか。何で分かんねんだよ。」

いや、狼・・・か?

頭には猫のような耳が生えている。
口からは小さなキバが(本人曰く犬歯だそうだ)2本両側に生えている。
手足には肉球付のモコモコしたものをつけている。
お尻からはふさふさとした尻尾が生えていた。

シュウは呆れたように言った。

「・・・そう、だな・・・。まあいい。今日は楽しんでこい。」
「おおっ。シュウ、お前もな。で、いきなりだけど、トリックオアトリートッ。」

シュウはため息をつきながらもイチに飴をいくらか渡した。

「えへ、サンキューっ。じゃーなっ。」

イチはニコニコしながら走っていった。

「・・・俺からすればバカらしい格好だが・・・。変な奴ら(レイ殿を筆頭に)を変に刺激しなきゃいいがな・・・。」

シュウはイチを見送りながら呟いた。

「お、ナナミい。可愛いね、でも何の格好?」

歩いているとナナミに出会い、イチが聞いた。

「えへー、ありがとイチ。これはアラビアンナイトのお話風の格好だよ。」
「アラビアンナイト?よく分かんねえけど、よく似合ってるよ。ん、ちょっとカレンの格好にも似てんね。」
「そうなのー。イチは・・・猫・・・?あっ、狼男だね、うんすっごい似合ってる。」
「だろ?」
「ナナミちゃーん。」

向こうでナナミを呼ぶ声がした。

「あ、ニナちゃんの声だ。じゃあちょっと行ってくんねっ。」

ナナミがニコニコしながら手を振って走っていった。

良かった、ナナミも楽しそうだとイチは喜んだ。
最近ジョウイの事であんまり元気なかったから心配だったんだよな・・・。
イチもランタンとお菓子の入ったカゴを持って踵を返した。

「ルックん、トリックオアトリートー。」
「・・・あんただって?イチに余計な行事教えたのは・・・。」

ギロリといきなり現れた英雄を睨みつけ、それでもルックは飴を渡す。

トリートを選ばないとこいつの事だから絶対ろくな事しないだろうとルックは知っていた。
解放軍時代にもあったハロウィン。
最初の年にルックはレイに散々な目にあわされた。
杖をバカな装飾たっぷりのキラッキラ仕様にされたり非力なルックに力を、と寝ているうちに額に筋肉とかかれたり・・・エトセトラ・・・ああ、もう忘れよう。
次の年からは完全防備(大量に飴を仕込んだ)で迎えることにしたルックだった。

「あれん、ルックってばまたちゃんと用意してたんだー。チッ。」
「・・・何か舌打ちが聞こえたけど?舌打ちしたいのはこっちだからね。ようやくこんなバカ騒ぎからおさらばだって思ってたのにさ。」
「やだん、ルックんったらのり悪いんだからん。仮装すらしてないじゃないー。あーあ、イッちゃんに言うの忘れてたなー、仮装しない者は無条件でトリックだっていう特別ルール。」

そう。
解放軍時代はそのふざけたルールを勝手に作られたせいでルックもいやいやながら仮装していた。
今回はそのルールまでは伝わってなかったようで、ホッとしていたところだった。

「そんな勝手なルールあんたの時だけで十分だよ。・・・あ。」

ぷいっと横を向いたルックは向こうのほうにイチがいるのを見つけた。

・・・バカな格好をして・・・。無意識にバカ共を煽ってる訳?
ルックは呆れてため息をついた。

現にバカ共がふらふらとイチに向かおうと・・・

「イッちゃんったらーん。すっごい可愛いんだからー、よく似合ってるよん。」

離れたところにいたはずだが、もうレイはイチのそばにいた。
ルックには見えなかったがしかし、どこを通ったかはよく分かった。

「おう、レイ。お前吸血鬼か?目、紅いし、よく似合ってるな。・・・ていうか転々と転がっている奴らはいったいどうしたんだ・・・?」

レイに気付きニッコリとした後、不思議そうにレイの後ろを見てイチが言った。
レイはニッコリとする。

「さあー?そんな事はいいじゃないー。」
「?あ、そうだ、トリックオアトリート」

よく分からないなという風だったが、思い出したように決まり文句を言った。
「えーイッちゃんならトリックでーっ。」

「・・・いや・・・トリートでお願いします・・・。」
「えー!?」

青くなりながらイチは無理やりレイからお菓子を奪っていた。
レイはぶうぶうとむくれていた。
そんな光景と、転々と転がるバカ共を見ながらルックは少し遠い目になった。