年下の男の子
二人が辿り着いた場所は、ニールが通っていた高校だった。
通っていた、と過去形なのは、明日引越しをしてしまうために転校することになったからだ。
もう既にこの高校の生徒ではないニールが、一体何の用があるのだろうとハレルヤは頭を捻る。
するとその疑問が伝わったかのように、ニールが口を開いた。
「・・・忘れモンがあってさ、それを取りに来たんだよ」
「それならアレルヤに頼んで取ってもらえばいいじゃん」
同じ高校に通う、というより級友の仲であるアレルヤに頼めば、わざわざこんなことをする必要もない。
ハレルヤの意見は尤もなのだけれど、そうはいかない理由がニールにはあった。
「いーんだよ、俺が奪・・・じゃなくて取らないと意味がねぇ」
「・・・・・・?お前、今『奪う』って言いかけなかったか?」
聡いハレルヤは聞き逃さなかったけれど、適当なことを言って誤魔化すことに関しては右に出るものがいないニールだ。
上手く丸め込んでハレルヤの手を引くと、グラウンドのある方へと歩みを進めた。
部外者連れともなれば、正門から守衛を通って事情を話すのが筋、ではあるのだけれど、大雑把で面倒くさがりなニールは、グラウンドを囲むフェンスの破れ目を潜り抜けて校内に侵入した。
呆れた顔をしたハレルヤもそれに続く。
部活も終わり、生徒の姿はもう見えないものの、職員室のある棟からはまだ灯りが点っているのが見えた。
そこには近付かないよう注意を払いながら、二人は正門正面にある棟に足を踏み入れた。
非常灯だけの僅かな灯りが、長く続く廊下の床をうっすらと照りつける。
深夜の廊下ほどではないとはいえ、人気の無い校舎は薄気味悪い。
ニールはちらりとハレルヤに視線を落とすと、何やら神妙な面持ちをしているのが目に入った。
「・・・もしかしてビビってんのか?」
茶化すつもりで言ったのに、帰ってきた言葉は身が凍え上がるほどの言葉だった。
「ん~・・・、あんま長いこといねぇほうがいいな。・・・引っ張られる」
何に?と問い返すことはしない、答えは判ってしまったからだ。
常人には見えない聞こえないものが、ハレルヤには見えて聞こえる、つまり霊感体質の持ち主なのだ。
ニールはそのことをうっかり失念していた自分を呪った。
「アンタ、もしかしてこれが怖いから、俺を連れて来たのか?」
「チガウチガウチガウ!!!」
「・・・ま、どっちでもいいけど、俺から離れんなよ?アンタ、ムダに憑かれやす――」
最後まで言い終わらない内に、ニールはハレルヤに抱きついた。
ガタガタ震えるオプション付きで。
「お・・・お前なぁ~、ちぃ~っとは年上を敬う気持ちはねぇのかよ?あんまりビビらすなっ!」
「あんだよ、ビビってんの、アンタの方じゃん・・・」