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吸血鬼の涙(上)

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 普段と全く雰囲気の違う綱吉が立っていた。




 普段の綱吉は優しい顔付きだが。
 今、隼人達の前に立つ彼は普段の綱吉からは想像も付かないほど厳しく表情で、凛々しさを感じさせる。瞳も優しい琥珀ではなく燃えるような金へと色を変えていた。


 10代目、だ。
 隼人は綱吉の姿を見つめそう思う。
 今ここに居るのは人間として暮らしている沢田綱吉ではなく。
 吸血鬼の一族の10代目の長、だと。

「少し待っていろ」
 そう呟き隼人の作った結界へと向かう綱吉を見て。
 隼人の心は迷惑を掛けてしまった申し訳なさと、来て下さったという喜びが複雑に入り混じっていた。

「誰の差し金か知らんが、ここはお前達の居るべき場所ではない。還れ」
 綱吉は吸血鬼の長。魔界の支配者となる男。当然魔力は強大だ。

 結界の中で蠢いていた異形のものたちは。
 一瞬にして光に溶け込み。

 在るべき世界へと還された。

「さすが10代目……っ」
 綱吉が魔物を還すのを見守っていた隼人は。主の強さに安心して息をついたと同時に。自分の体の状態と。
「あれ、ツナなのか?」
 山本の存在を思い出した。
「獄寺、大丈夫か?何かすげぇ顔色悪いけど…それにその羽根とか何なんだ?ツナも別人みてえになってるし…」
「!」
 ふらふらと隼人の側に近付いて来た山本が、隼人の羽根に触れようとする。

 ダメだっ。
 限界まで力を消耗した体は隼人の意志とは関係なしに、男の生気を求めている。
 さっきは自分から山本に近付いたが、綱吉が魔物を還した今。隼人が山本から生気を受ける理由はない。それに、さっきは非常事態だからと山本へ誘うような言葉をかけたけれど。綱吉以外の男に触られるのは普段の状態なら怖い。

 けれど。

 限界まで消耗して浅ましいサキュバスの性が面へと出てしまっている今の自分は。
 山本に触れられた瞬間、生気を求める雌と化してしまうだろう。

 いや、だ。
 だったら触れられる前に逃げれば良い。頭ではそう思っても疲労しきった体は中々動いてくれない。
 
 もうだめだ。
 目をきゅっと瞑った直後。
 訪れたのは山本の手の感触ではなく。
 どさりと何かが倒れた音だった。

 え。

「山本、悪いが今まで見たことは忘れてくれ……」
 すぐ傍で綱吉の声が聞こえ、隼人は瞳を見開く。綱吉の足元に、山本が倒れていて。おそらくは手刀で綱吉が山本を気絶させたのだろう。
「隼人」
 綱吉が自分を呼ぶ。普段なら動けない体を叱咤してすぐに駆け寄るところだが。今の隼人は疲労もあるが、それ以上に。綱吉にも近づく事を恐れていた。
 綱吉は自身の生命維持のために隼人を抱く。それはイコール隼人の生命維持にも繋がっていて。だから隼人はサキュバスの本性を出さずとも今まで生きてこれた。
 でも今綱吉に触れられたら。自分から淫らに求めてしまうであろう事は分かっている。
 今まで主に抱かれた時の経験から、彼は恥じらいや照れを感じさせる表情を好んでいたように思う。でも今の自分は……と隼人は考えて立ち竦む。浅ましく男を求める自分を知られた後。彼はいままでのように抱いてくれなくなるのではないか。
 綱吉に必要されない自分。それを想像しただけで心が凍った。

「隼人」
 もう一度綱吉が呼ぶ。優しい、声だった。瞳は金のままだが、先ほど魔物たちと対峙していたときの様な厳しい表情は無く、優しい笑み。
「隼人、おいで。魔力を沢山消耗して、体きついだろう。オレの為に使ってくれた力だろう。だからオレが返すから」
 大丈夫、オレはサキュバスがどういう生き物かよく知ってる。隼人が本来はとても純情な事も。だから大丈夫。 
 その言葉を聞いても、隼人はまだ動かない。
「ああ、そうか。消耗しすぎて全然動けないんだね。気付かなくてごめん」
「!!!」
 静かに綱吉が近付いてきて。隼人の体を抱え上げる。
「んんっ」
 触れられてしまうともう。サキュバスとしての本性を抑える事は出来なかった。主の唇に夢中で吸い付く。その後はもう。

 サキュバスの本能へと堕ちていくだけ、だった。



「って……!?」
 山本は並外れた体力の持ち主で。眠らせる時に綱吉は彼の今日見た記憶を消したはずだったが。
 まだ綱吉と隼人が行為に溺れている最中に、山本は目を覚ました。普段の綱吉だったらそれにすぐ気付く事が出来た筈だが。今回は消耗しすぎた隼人の体力を元に戻す事に集中していて気付けなかった。
 親友と好きな相手が目の前で体を繋げている。それは山本にとって衝撃的なものだった。
 綱吉と隼人がそういう関係なのだ、というのは想像はついていたが、目の前に見せられたとなるとショックはやはり大きい。
「あんっ、じゅうだいめえ」
 綱吉に貫かれながら、隼人は自らも腰を振り快感を追い求めている。その姿は誰にでも足を開く娼婦のようだと、山本はぼんやりと思った。
 そして。
『それは間違いではないぞ』
「へ?」
 耳元に低い声が聞こえて周囲を見回すが、何もいない。だが声はさらに山本へと話を続けた。
『お前はあれを好いているのだろう。だったら遠慮なく犯してやればいい。あれはそれを喜ぶ生き物だ。男の精を浴びて喜ぶサキュバスという魔物だ、あれは』
「さきゅばす…」
 普段の山本なら、そんな声には耳を貸さなかっただろう。だが。目の前の二人の情況は山本の心奥底にわずかに潜んでいた、暗い欲望に火を付けた。

 結界から密かに逃げ出していた1匹のずるがしこい魔物は。

 山本の精神に入り込み。
 来るべき魔界の長の試験を邪魔してやろうと、にやりと笑った。



 獄寺君、落ち着いたみたいだな。

 行為の後、意識を飛ばした隼人を抱えて綱吉は自宅へと戻って来。隼人を彼の部屋ではなく自分の部屋へ運びベッドに下ろした所だった。
 綱吉が気がついた時には既に山本の姿はなく。
 彼の家に電話してみると既に帰り着いていると彼の父親に告げられ。いつの間にと疑問に思いながらも親友の無事にホッと息を吐いた。
 隼人も疲れ切って眠っているものの、顔色は悪くない。
 むしろ生気を存分に吸ったからか普段は色白過ぎる頬が淡く健康的に色付いている位だ。
 その部分をそっと撫でながら。
 彼を失わなかった事に心から安堵する。
 後一歩遅ければ隼人は山本と望まぬ性交を行い、あげく自らの肉体を朽ち果てさせていただろう。

「君はずっとオレの側でオレだけ見てなきゃ駄目だ」
 隼人の耳元にそっと囁いて。
 寝息を立てる唇に柔らかくキスを落とした。


 ああ、またいつもの夢だ。
 ぼんやりとした意識の中。隼人は自らが夢を見ている事を自覚する。
 初めて綱吉に抱かれたときの夢。そして迎えた朝。
 綱吉の腕の中で幸せにまどろんでいた隼人は。ふとベッドサイドに置かれたフォトフレームを見て、そこに綱吉と共に映っているのは誰かと尋ねた。
 優しい印象を与える少女の手と綱吉の手は軽く繋がれている。
 隼人の前で綱吉はその写真をそっと撫で。

「彼女はオレの大事な人」
作品名:吸血鬼の涙(上) 作家名:HAYAO