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吸血鬼の涙(下)

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 いつのまにか主が自分のすぐ傍に立っている事に気付いた。
「じゅうだいめ…っ」
 強く口付けられ驚くが。触れられた場所から力が体内に満ちていくのを感じ、ああ、これは生気を補ってくださっているのだと納得する。
「もし何かあって力が足りなくなっても。この前みたいに他の奴から生気を奪おうなんて考えるな」
「……はい」
 唇が離され綱吉が零した言葉。もうすぐ自分は彼に必要されなくなるのに、それでも尚綱吉は自分への独占欲のようなものを抱いている。それが堪らなく嬉しい。






 何で、オレこんな夜中にこんなとこ歩いてるんだ?
 山本武は自らの行動を疑問に思ったが、その足は何か別ものに操られているかのごとく止まらない。ここ暫く、自分の行動に自身でも分からないことが多い。大好きな野球の練習をさぼってしまう事すらあった。
「……ここは」
 やがて足を止めたそこは。以前異形の羽根をはためかせていた隼人を見付けた場所、だった。
 ぼんやりとしか覚えていなかったそこで見た出来事が、山本の中で形を取り戻して行く。
「ここで、ツナと……獄寺、が……」
 親友と体を繋げその身を快感に捩じらせていた好きな人の姿が、はっきりと思い浮かぶ。同時に押し込めていた黒い感情も。あの時は確かにマイナスの感情を二人に抱いたが、山本にとっては二人は親友と好きな人。二人とも大事な人なのだ。だからこの黒い感情は押さえ込むと決めたのに。それ故あの出来事自体も忘れようとして実際忘れかけていたのに。
「なんで今更っ」
 思い出す様な行動を取っているんだ。
 それは山本に憑いている魔物の仕業だったが、魔力を持たない彼はそれに気付けない。
 沸き起こる感情に抵抗しようとすると。何者かに囁かれたどす黒い誘惑の言葉が脳裏に甦って。それと共に。酷い頭痛が彼を襲い。……自我が薄れて行く。
「ってぇ……」
 自分の感情が自分のものとして制御できない。 山本は痛む頭を抱え込むようにして、その場に倒れ込む。
 しかし直後、彼は何事も無かったように起き上がったが。

 その瞳に普段の彼がもつ光は無かった。






「つまらないな」
 200個目の兵器の破壊を終え、綱吉はぽつりと呟く。
 戦いは好きな方ではないが、それは相手が感情を持つ場合だ。綱吉にとって生命を伴わない兵器を壊す事はむしろスポーツに近い。昼間は能力が鈍っているから、学校では運動音痴と思われているが、実は体を動かすのは嫌いではない。それに幼い頃からリボーンのスパルタ戦闘教育を受けていて、小柄な体に似合わず体力はあるのだ。だから生命を持たない単純な動きの兵器は、綱吉にとって準備運動程度の相手だった。
「一応かなり力を持つ魔物の構造と一緒って聞いてたんだけど、脆いな」
 綱吉の行動は、あちらの世界に映像として流されている。まだ試験は始まったばかりだが。彼の言葉や行動を見せ付けられ。既に彼の支配に抵抗していたはずの一部の闇の世界の住人達は。彼を支配者として迎えいれる事に反対する意思を無くしていた。
 放たれた兵器は1000個。時間制限は2時間。まだ10分しか経っていない今。綱吉は250個目の兵器の破壊に入っている。このペースだと楽に試験はクリアだろう。もっとも抵抗するものがいなくなった今、試験そのものの意味は既に無くなっていたけれど。

 少し離れた場所から青い火花のようなものが空に浮かぶ。
「次はあっちか。有難う隼人」
 魔力を持つ者にしか見えないそれは、隼人が綱吉に兵器の場所を知らせる為のもの。
 それを目印に綱吉は次への場所へ向かうべく、マントをはためかせて上空へと飛び上がった。


「……」
 順調に兵器の破壊を進めていた綱吉だが、破壊した数がもうすぐ800に届くという時に、ある異変に気付いた。
 隼人からの印が全く上がらなくなっている。綱吉自身に勿論感知能力はあるから試験に大きな影響は無いけれど。綱吉の為に、と常にそれを喜びにして動いている彼が、途中で手を抜く事など多分無い。
 ……何か、あった、な……。
 綱吉の勘はよく当たる。その勘が隼人に異変があったと告げている。
 兵器の破壊は後回しにして。
 綱吉は隼人のいる場所を探すべく、彼の気配を辿った。




 その頃隼人は。
 山本と向き合っていた。いや正確には。
「ひさしぶりだな」
 山本の体を借りた、かつて自分を囲っていた相手、だ。
 気配ですぐ誰かに気付いた隼人は、トラウマを与えられた相手を前にカタカタと震え出す。だが。最後の理性で。
 綱吉の試験の邪魔にならないようにと、自らの気配を消し、自分と相手ごと結界を張るのは忘れなかった。



「なんでどこにも気配が無いんだっ!」
 綱吉は焦っていた。隼人の居場所を探るべく、全神経を集中しているのに、彼の気配を微塵も拾えない。綱吉の感知能力が低いのではない。純粋な魔力は隼人より綱吉の方が遥かに上だ。ただ隼人は幼い頃の境遇故に、自身の気配を消す事に長けている。小さな頃、彼は常に自分を狙う相手から、自身の周囲に気配を消す為の結界を張る事で難を逃れていた。
 ……何か危険があって、それを避ける為に気配を消してるなら良いんだ。でも多分そうじゃない。
 おそらく危険に対峙しながらも、それを綱吉に知られない為に、試験の邪魔をしてはならないと考え気配を消した。綱吉がよく知る獄寺隼人はそういう人物だ。自分の事より何よりも、綱吉の為を思って行動する人。
「っリボーンなら……」
 綱吉は緊急連絡用に、と師から渡されていた通信機に手をかけた。

 オレはまだ君に何も伝えていないんだ……。





「……」
 隼人はかつて幼い自分を襲った男を、気丈に睨み付けていた。普通に魔物相手なら、魔力を使って戦う事も厭わないが、男は山本の体に憑いている。
 相手の動きが予想できない以上、下手に動く事は出来なかった。
 ……そもそも目的は何なんだ。オレ自身か、それとも……。

「今日は例の試験らしいな。この前見た限り、お前は吸血鬼の一族の長に随分大事にされているようだ。ここでお前を傷付いたのを知れば、吸血鬼の長は試験を放棄して助けに来るかもしれんな。あいつにはお前を奪われた恨みがあるからな、そんな相手が我らの世界の主になるのをそう簡単に認めたくないのだよ」
「!」
 男の目的は綱吉の試験を邪魔する事。それを知った隼人には、少しだけ余裕が生まれた。
 トラウマを植え込まれた相手に対峙している恐怖が消えたわけではない。けれど。自身が綱吉の邪魔にならないように、その想いの方が強い。
「生憎オレとお前の周りには、結界が張ってあるんだ。この結界で、オレとお前の様子は外には分からなくなってる。そしてこれが壊れない限り、あの方がここで起こっている出来事を知ることは無い」
 きっぱりと告げた隼人に、男は薄く笑って応えた。

「ならば助けを求めたくなるようにすれば良い」






「リボーン!まだ獄寺君の居場所分からないのかっ」
「……獄寺の奴よっぽど強力な結界張ったらしいな。たいした魔力はもってねえはずなのに……」
「……気配を消すのは得意だからね、昔から」
「……」
作品名:吸血鬼の涙(下) 作家名:HAYAO