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吸血鬼の涙(下)

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 リボーンと、もしもの時にと協力を仰いでいた数人に隼人の居場所を探ってもらっていたが、見付からない。焦る綱吉だったが。

「!」
「どうしたツナ」
「今、かすかに。獄寺君、隼人に呼ばれた気がした……っ!」
 ほんの一瞬だが隼人が「じゅうだいめ」と呼ぶ声が、綱吉に聞こえ。
「場所、分かったかも!」
 それを頼りに、綱吉は走り出した。




「っあ、あ」
 隼人は山本の体を借りた男に服を脱がされ、全身のあらゆる性感帯を指や舌で嬲られていた。喘ぎ声を上げ、サキュバスの本能に引きずられそうになりながらも、結界を弱める事はせずにどうにか耐えていたが。
「っ!!」
 足を抱え上げられ、その場所に男が触れようとした瞬間。唯一の人以外と交わらされる恐怖に強い動揺が生まれ。
 じゅうだいめっ。
 思わず、主を呼んでしまった。
 声にした訳ではない。だが魔力を持つものの心の声は時に相手に伝わってしまうことが有る。隼人は自分の声が綱吉に伝わっていない事を祈りながら。男の行動を見守る事しか出来なかった。

「……?」
 綱吉以外の男に貫かれる覚悟を決めて瞳を閉じていた隼人だが。その感触はやって来ず。それ所か足を抱えていた筈の男の手がゆっくりと離れ。
 目を開けると。
 男が苦しそうに膝をついていた。
 
「っ、なんだというのだ……これを犯すのはお前も望んでいたことだろう!」
『ちがう!確かに全く無かった訳じゃないけど。でも違う!ツナの気持ちが分からなかった頃は奪ってやりたいって思ったこともあるし、獄寺に邪な感情抱いたこともある。この前の事でその感情また呼び戻されそうになったけど。違うんだ……ツナはオレの親友だし、獄寺はオレの好きな人…オレがここで行動を起こしたら二人とも傷付く。二人が傷付く事なんて、俺は望んでない!どっちもオレの大事な人だ。だから』

 どっちも傷付けたくなんてねえんだ!

「やまもと……」
 どうやら山本の本来の精神と、男の精神が鬩ぎ合って、それが男に影響を及ぼしているらしい。隼人を犯そうとする男と、それに抵抗する山本。
 山本に憑いていた男と山本の精神の争いは。

『ばかな!』
 山本の思いの強さが勝った。だが普通の人間の心で魔物に対抗した山本の体は地面に崩れ落ちそうになり、隼人は慌ててそれを支える。
 そして。
 山本の体から弾き出されて再び精神だけになった魔物は、怯みながらも。
『!』
 あるものを見付け、隼人が驚いた隙に一瞬出来た結界の隙間から飛び出した。
「なにを?」
 呆然とした様子でその気配を追い。その先にあるものを見て硬直した後。
 山本の体を慎重に横たわらせ、隼人は疲労した体に鞭打ち全速力で駆け出した。

 なんで!笹川京子がこんな時間にこんな場所にっ。
 しかも彼女の周囲には綱吉の試験用に配置された兵器がある。

 まさか……。
『あの少女は確か長の知り合いか。私が憑いていた男は人間にしてはかなり丈夫なようだが、あの少女はか弱そうだ。……長の試験の為の兵器が人間に怪我をさせたとしたら、どうなるか』
「!!やめろっ!!!」
 魔力を持たない者に反応しないはずの兵器が、京子に向かって飛んでいく。男が、京子の周囲に自らの魔力を発生させたのが原因だ。生身の人間があれを受けたら大怪我では済まないかもしれない。
 笹川京子だけはダメだ、絶対に傷付けては……。
 綱吉の伴侶となるべき彼女。彼女を失ったら綱吉は深く悲しむだろう。
 それだけはさせない。

 隼人は京子と兵器の間に、自らの体を盾の様に滑り込ませた。




「!?」
 隼人の気配の元へと空を駆けていた綱吉は、左腕に異変を感じ足を止めた。左腕には隼人がお守りの代わりにと付けてくれた銀のブレスレットがあるはずだったが。
 袖を捲りその場所に視線を向けると。
 それが何の前触れも無く、見事に千切れていた。
「……隼人?」
 元から綱吉の中にあった不安が、更に膨れ上がっていく。だがそれを振り払うように、再び駆け出した。

 彼の無事を確かめる為に。




「っ……ぐっ」
「ごくでらくん!?」
 羽根、もう使いもんにならねえかも……。
 抱き締めるようにして京子を庇い、異形の羽根で平気を受け止めて。隼人の羽根は千切れそうなほどボロボロになっている。羽根にも神経は通っていて、酷い痛みが襲ってくるが。
「だいじょうぶ、もうすぐ10代目が……」
 安心させるように、京子に笑いかける。既に結界は解いた。これだけの異変に綱吉が気付かない筈がない。彼が来るまでは、彼の大事な人を守ってみせる。
 その為に死んでも構わないと思った。それに、それなら彼が彼女と去っていく姿を見送らずに済む。
 ここで彼女を守って朽ちたのなら、きっと綱吉は褒めてくれる。
 それを想像し、近付いてくる綱吉の気配に安心して。
 隼人は淡い笑みを浮かべて瞳を閉じた。






「!」
 ガチャっというドアの音に反応して。ベッドに突っ伏していた綱吉は体を起こす。
 入ってきたのは師であるリボーン。
「トラブルはあったが試験は合格だぞ。お前があっちの支配者になる事に異存を持つ者は居なくなった」
「試験の結果なんてどうでもいい!!獄寺君はっ」
「……まだ目は覚ましてない」
「助かるんだろうな!!」
「……多分な。一応あいつも半分は魔物だ。普通の人間よりは丈夫だろうし」
「……」
「ひでえ顔だな、ツナ」

 まるで泣いてたみたいな顔だ。

「……俺が泣けない事はリボーンもよく知ってるだろ!今回もやっぱり泣けなかったよ。こんな状況なのに!泣きたいのに!」
「でもお前がここまで泣きそうな顔したの、オレは初めて見た、ぞ」
 綱吉がずっと出来ない事。それは涙を流す事、だった。どんなに大きな怪我をしても、涙を流す事は無く。
 小さな頃、体格も良くなく昼間は体力も無かった綱吉は、始め周囲の子供にいじめの対象となっていたが。どんな状況に陥っても泣き出す事の無かった彼を段々周囲は気味悪がり、遠ざかっていって。そんな綱吉にたった一人近付いたのが。京子だった。
 彼女は泣けない綱吉を。
「ツナ君は強いんだね」
 という言葉で受け入れてくれて。
 その時から、彼女は綱吉の中で特別な人になった。でも自分がずっと欲していたのは彼女ではない。綱吉が本当に求める存在は、その時彼の周囲には居なかった。

「ツナが獄寺の傍に付いてやってた方が、あいつも早く目覚めるかもな。おめーの精神状態を測って引き離したつもりだったが……逆効果みてーだし。行って来い」
「!」
  リボーンの言葉を受け、綱吉は部屋を飛び出す。向かったのは獄寺が治療を受けている、館から少し離れた場所にある綱吉の父親の知り合いが営む病院。綱吉の事情を知り魔物の対しての知識もあるその医者は、驚きながらも隼人の治療を受け入れてくれた。
 本当はずっと彼の傍に居たかったが、綱吉が隼人を医者に託した後。気付いたら綱吉は自室のベッドに倒れていた。どうやら極限に張り詰めていた自分を、リボーンが気を失わせることで強制的に休ませたらしい。


 綱吉の背中を窓から見送りながら、リボーンはぽつりと呟いた。
作品名:吸血鬼の涙(下) 作家名:HAYAO