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吸血鬼の涙(下)

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「今まで泣きそうな顔すら出来なかった奴が、あんな表情見せるようになったんだ。もしかしたら、獄寺が本当の意味でツナを受け入れたなら……泣けるようになるかもな」
 そう、なればいい。



「え」
 病院の前で、綱吉は思わぬ人物二人と再会を果たした。
「父さん、母さん」
 もう数年会っていなかった自分の両親。
「ツー君……大変だったわね」
 母に抱き込まれた綱吉に、父は。
「しかしあの子があんな目に遭って、ツナよく暴走しなかったな」
 それだけ大人になったって事か、と笑う父親に。綱吉は苦い笑みで応えた。

 倒れた隼人を見た時、混乱して暴走しそうにはなった。だが、もっと錯乱した相手が居て。その相手を抑える為に、綱吉は自らの感情を押さえ込んだのだ。
 京子ではない。怪我をした隼人を見て、もっとも取り乱したのは意識を取り戻した山本、だった。
「自分のせいだ」と取り乱す彼に綱吉は「山本のせいじゃない」と何度も言い聞かせて。そうしている内に少しだけ冷静になれた。
 隼人を襲った兵器は既に倒し、それが試験用に設置された最後の兵器で。兵器を操った魔物もリボーンにより既にもといた世界へと還された。綱吉はその存在を消してしまいたい程の怒りを抱いていたのだけど。その怒りをぶつける前にリボーンが行動を起こしてしまった。向こうで厳重な監視の下に置くからという師の言葉に、綱吉は頷くしかなかった。そして今は隼人の治療が最優先と、彼を抱きかかえその場を去ったのだった。


 両親が医者の話を聞いている間に、綱吉は隼人の眠っている病室へと足を踏み入れた。
 顔色は酷く悪いけれど、彼は柔らかい笑みを浮かべているように見え。
 綱吉はそれに切なくなった。
 隼人はきっと満足しているのだ。綱吉の大事な人を守れたと思って。
 夢の中で伝えた『君も大事だよ』という綱吉の想いは、隼人に伝わっていなくて。もしちゃんと言葉にしていたら、こんな状況になっていなかっただろうか、と考えて。
 綱吉は首を横に振った。
 自身が綱吉の大切な人だと分かっていたとしても。隼人の取る行動はきっと変わらなかっただろう。京子が綱吉にとって大切な人なのは変わらないのだし、例え見ず知らずの人間だったとしても。彼は綱吉の為に設置された兵器が人を傷付けるのを見過ごさないだろう。人間に怪我をさせたと、綱吉が責められる事の無いように。


「早く、目を覚まして。オレは君に伝えなきゃいけない事が沢山あるんだ……謝らなきゃいけないこともたくさん…」
 青白い頬にそっと触れ。軽く唇を合わせて。
 口付けを通して想いを注ぎ込んだ。




 優しい笑みを浮かべる母。
 ああ、小さな頃の夢を見ているのだと隼人は理解した。

 幼い頃に何度も言い聞かされた言葉がある。

『隼人。貴方はずっと自分だけを愛してくれる人を好きになってね』

 柔らかいけれど、奥に切実なものを秘めたその声。隼人の父以外を受け入れず、死んで行くしかない彼女の唯一つの願い。

 …ごめん、オレ母さんの願い、叶えられそうにない。でも、母さんも幸せ、だったんだろ?唯一の人を見付けて。オレも幸せ、だよ。全てを捧げられる人に出会えて。

 心の中で告げたそれに対して、母が何か言おうとしたらしかったが。その言葉は隼人の耳に届く前に掻き消え。意識は現実へと引き戻された。


「…オレどうして」
「!!獄寺君」
 目を開けて最初に目に入ったのは見知らぬ天井で。千切れかけた羽根や体に負った怪我などは治療されている様だった。窓から見える外の景色は朝で、時間が随分経っていることを知る。
 上体を起こすと、更にベッドの傍には憔悴しきった表情の綱吉が居て。しかも隼人が意識を取り戻したと分かった途端。彼は隼人を抱き締めてきた。
「じゅうだいめ?」
 自分に縋る様な様子の主に戸惑う。
「良かった……君が目覚めてくれて。オレ、君に秘密にしてた事が沢山あって。それを試験が終わったら絶対言わなきゃって思ってて」
「?」
「とても長い話になるけど……聞いてくれる?聞いた後、君は俺を嫌いになってしまうかもしれないけど」
「?オレが貴方を嫌う事なんてっ」
 そんな事有り得ない、と言いたげな隼人を、綱吉は酷く暗い笑みを浮かべる事で遮り。
 ぽつりぽつりと、話し始めた。


 獄寺君、前にオレがどうして小さい頃に両親から離れたのかって聞いてきたよね。
 オレの父と母はとても優しい人たちだったけど。普通の人間で。
 二人はオレに事あるごとに謝ってきたんだ。特に母は良くオレに「普通に産んであげられなくてごめんなさい」って。でも謝ってもらったってオレが普通の人間になれる訳じゃないし、そんな両親にイラつく事も多くなって。イラついて彼らを傷付ける前に。オレが離れなきゃって思ったんだ。
 両親から離れて一人になって。欲しいものが出来たんだ。オレだけを見つめてくれる人。オレの為だけに生きてくれる人。でもそんな存在普通にあるはず無くて。
 だったらそういう存在を作れば良い、って思った。ずっとオレと一緒に居てくれる存在。それを切実に求めてた。

「?それは笹川京子ではないんですか?」
 綱吉の話に、京子は当てはまらない気がして首を傾げる。彼が好きで一緒に居たいと思っているのは彼女では、ないのか。
「…違うよ……。彼女には大切な家族が居て。オレだけを見てくれる存在にはなりえない。オレが求めたのは」

 君だよ、隼人。

「え」
「ここからが本題なんだ。……君はオレと君が出会ったのは偶然だと思ってるかもしれないけど。そうじゃないんだ。全て……オレが仕組んだこと、なんだ」

 死に向かうしかない美しいサキュバスの女性と、その女性の血を強く引いた子供。魔の世界と人間界の狭間でその二人を見た時。綱吉はもうすぐ全てを失うだろう子供を欲しいと思った。全ての世界を失った子供を、自分だけのものにして。自分の思うような存在にしようと。その為に、子供の母親を、自分なら助けられたかもしれないのに、見殺しにした。その後、すぐ子供を保護する事はせず、男達に囲われるのを黙認していた。何故なら、綱吉は子供の救世主になる事で、自分の存在をその子供に印象付けようとしたから。すぐにその機会はやってきて。男が子供を襲った所を救う事で、綱吉はサキュバスの子供の救世主になる目的を果たし。子供は綱吉が求めていた通りの存在になった。

「後は君も知ってる通りだよ。オレはこんなに汚い存在なのに、それを一切知らせずに君にオレの心が向くように仕向けて。そして君が向けてくれる好意を当たり前のように受け止めて……オレの事、嫌いになった?」
「……いいえっ」
「どうして?オレは君が欲しかった為に君のお母さんを見殺しにしたんだよ?」
「……あの、じゅうだいめが母を助ける事が出来たかもしれない方法って……なんですか?」
「…オレさ、一応吸血鬼の一族の長だし、魔力も生命力も強いじゃない。だからセックスじゃなくても……さすがに触れるだけじゃ無理だろうけど、例えばキスとかでも暫くは生命を維持してあげる事出来たと思うんだ。君が欲しいが為にオレはその話を彼女に持ち掛ける事すらしなかった」
作品名:吸血鬼の涙(下) 作家名:HAYAO