臨帝小ネタ集:11/11追加
さまばけ!
この子は本当に俺の顔が好きなんだな。瞼を閉じた状態でもひしひしと感じる視線を意識して考える。最初は気のせいかと思ったけど、試しに寝返りを打って彼に背を向けてみたらすぐにそうっとそうっと足音を立てないようにして俺の、多分顔の少し上辺りに移動してきたのだから笑ってしまう。もうずっと飽きもせず、体感では三十分程は視線が逸らされないまま時間が過ぎていってる。俺としては、この部屋暑いし枕代わりの座布団や体の下の畳にも自分の体温が移ってきて不快だし扇風機の風は当たるけど元々蒸し風呂みたいなここの空気をかき混ぜてるだけだからあまり意味はないし(ないよりはずっとマシだけど)つまり暑いのでとっとと目を開けて帝人君を適当に言いくるめて外出したいのだけどあんまり熱心に見つめているものだから、もう少しくらい好きにさせてあげていいかな、と思ってしまった結果が今のこの状況だ。甘い甘い。
こめかみの辺りに掻いた汗が、横向きで寝ているせいでつうっと目まで伝ってきそうな感覚。それで目が覚めたことにしよう、と思ったのに途中で帝人君の指に拭われた。……いいやもう。起きよう。
瞼を上げれば視界には帝人君の肉付きの悪い足。そこから視線を上げれば帝人君が、えっと、自分の指を舐めていた。つい今さっきその指で俺の汗を拭わなかった? まあ、別に構いやしないけど。
「おはよ」
喉が渇いて声が出しにくい。ただ横になっているだけで脱水症状起こしそうだなここ。今年で四回目の夏、よく無事でいられたものだこの子。体力ないくせに。
「おっ、おはようございます」
赤い顔でびくりと体を震わせて俺を見る、そして慌てて指を口から離して下ろす。なんというか、変わらないね。こういうところは。もちろん変化した箇所だってあるけれど。
「もっとやることないの君」
「え?」
「大学生活初めての夏休みだろう。前期はなんだかんだで忙しかったんだし、せっかくの長期休暇なんだからもっと有意義に使ってみたらどうだい?」
「はい。だから臨也さんといるんですけど」
「有意義なのこれ」
「僕個人にとってはとても。それに『新宿の折原』をこんな私的なことで独占してるって状況が面白いです」
中学生にも見える童顔にいたずらが成功した子供みたいな笑みを浮かべる帝人君になんとなく息をつき、喉が渇いたと告げればお茶持ってきますねとぱたぱた台所へ向かっていった。その薄い背中に視線を遣り、起き上がろうとしたところで思い出す。今更意識するなんて、自分で思ってたより寝ぼけていたようだ。そうでなければ暑さで頭がやられてる。
「ねえ帝人君、これ外してよ。痒い」
素肌に直接、何重にもガムテープが巻きつけられ縛められた両手首を振ってみれば、またあとでーと気の抜けた答えが返ってきた。
作品名:臨帝小ネタ集:11/11追加 作家名:ゆずき