臨帝小ネタ集:11/11追加
二十歳になったので
「帝人君と酒盛りだなんて、なんだかおかしいね」
「おかしい、ですか」
僕としては、ようやっと、という気持ちのほうが強いのだが。
「うん。だって最初にネットでコンタクト取ったときは中学生で、初めて顔を合わせた時ですら高校に上がったばかりだった君と、こうして酒が飲める年齢まで縁が繋がってて実際に向き合って飲んでるって現実が、なんかね」
そう言われても、まだ初めて会った頃の臨也さんの年齢にすら達していないのだ。この差が縮むことは何かとてつもない超常現象でも起こらない限りありえないけど、でも、こうして年を重ねていくことで追体験くらいはしたいなと思う。
「臨也さんて二十歳の頃はどんなでした?」
「ん? 二十歳、二十歳ねえ……」
目を伏せて、ビールの缶を口に当ててごくりごくりと飲んでいく。その辺のスーパーやコンビニで売ってる缶ビールを飲んでるだけなのに見蕩れるほど様になる人だ。もう三十近いというのに相変わらず年齢不詳気味。そして出会った頃から何一つ欠けることなく、それどころか凄みを増した、きれいな人だ。
「今より少しばかり直接的に危険な仕事が多かったって程度で、やってることも俺の中身もそれほど変わりはないよ」
「危険な仕事、ですか? 臨也さんが?」
この、何よりも己の保身を優先する人がなんでまた。
「そうそう。高校の頃から情報屋の真似事はしてたけど、実際こちら側に頭まで浸かることになったのは高校卒業してからだからね。二十歳の頃なんて駆け出しの若手もいいところだろう? 多少危険なことでも名前を売ってコネを作るのには必要だったからさ」
若かった若かった、と軽く笑う。頬に赤みがさしてるけど、話しぶりや行動から推測するに酔っ払ってるんじゃなく、単に色が白いから目立つだけなんだろうなあ。残念。
「にしてもさぁ帝人君かなり強いね」
「そうですか?」
「こんだけ飲んでも顔色変わらないし呂律も回ってるし頭も働いてるようだし体の動きもしっかりしてる。十分だよ。ああ、でも杏里ちゃんのほうが強いんだっけ? 聞いたよー誕生日会の話。紀田君が早々に潰れて平気な顔で飲んでた君が唐突に寝潰れて、結局」
「園原さんが電話した張間さん経由で矢霧君のお世話になりましたよ……」
誰から聞いたんだその話。なんて突っ込みはしたところで意味ないんだろうなあ。
「ま、よかったじゃないか。自分の潰れ方が解って。あとは落ちるラインがどの辺りなのか見極めるだけだね」
はいと差し出される日本酒のカップ。口をつけたらあっという間になくなった。喉渇いてたのかな。
「それにしても紀田君、情けないな。あの子そんな強くないから飲み方は仕込んであげたのに……まあ君らと一緒だったから気が緩んだのかもしれないけど」
「……正臣とも飲んだんですか」
「職業訓練の一環みたいなものだけどね。そういった席で醜態晒されても困るし」
次コレねーと、なんか高そうな気配がするウィスキーのボトルが出てきた。ええと。
「それで、僕にも飲み方教えてどうするんです?」
「別に何も? 自分の限界を把握しておくのは悪いことじゃないだろう? 年下の恋人への純然たるサービスだよ」
そうして果てしなく胡散臭くどこまでも美しく、この年上の恋人は笑うのだった。
作品名:臨帝小ネタ集:11/11追加 作家名:ゆずき