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臨帝小ネタ集:11/11追加

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帝人くんは臨也さんがすごい好き



 臨也さんの愛は薄っぺらい。

 何かと愛愛ラブラブうるさい人だけど、語る言葉の重みというか真剣味というか、そういうものにすごく欠けている。人を騙して操って陥れて捨てるときはあんなにも、思わず縋り付いてしがみ付いて信じ切って自分の全てを明け渡してしまえる、そんな言葉の使い方ができる人なのに。おかしなものだ。
 そうして臨也さんは今日も語る。人という種そのものへの広くも浅い愛を。なんてなんて嘘くさいんだろう!

「帝人君」
「なんですか」
「眉間に皺が寄ってる。機嫌が悪いのかい?」
「そうでもないです」
「じゃあこれはなんで」
 僕の眉間に白い指先がぐりぐり押し付けられる。ちょっと痛いから頭を振って拒否。しつこいときは追っかけてくるけど、今日は諦めてくれたみたい……ってことではないようで臨也さんは楽しげに僕の顔を見て口を開く。
「帝人君帝人君」
「……なんですか」
「じゃあどうしてしかめっ面してたのかな?」
「元々こんな顔なんです」
「はい失格」
 額にデコピンを一発。整えられた爪はそんな痛みは感じなかったけど、でもやっぱりぴりっと一瞬痺れたような感覚。
「痛いんですけど」
「ひ弱だねえ」
「絶対そういう問題じゃないです。てか額をどうやって鍛えろっていうんです」
「そんなの俺だって知らないよ。でも痛覚は経験次第かな。ある程度以上のレベルの痛みを記憶してるなら体が勝手に、これくらいならまだ動けるとかこれはあのときと比べれば大したことないとか判断してくれるし。そういう意味では帝人君はまだまだ経験不足だねえ。今後の君のためにも一回くらいボコってあげたほうがいいのかな」
「……えっと、嫌です」
「そう。じゃあしないよ」
 よ、よかった。あの静雄さんと十年近く殺し合いみたいな喧嘩をしてきて殺されず障害も負わず五体満足で生きてるこの人相手に勝てる気なんて全然しないので本当に良かった。諦めてくれて…………諦めてる、よね。ただの思いつきだよね本気じゃないよね嫌だなあ無駄に心拍数が上がってきた。

「そんなあからさまに怯えなくても」
 噴き出すようにして笑う臨也さんをじとっと睨む。それもこれも普段から信頼させてくれない言動行動取ってばかりの臨也さんに問題があると僕は思うとてもすごく心の底から思う。
「やれやれ。信用ないなあ俺」
 ぺたん、と両手で顔を緩く掴まれる。さらっと乾いた滑らかな皮膚の感触と、人差し指の指輪の冷たさ、じんわり伝わるこの人自身の体温。そんなものが僕に触れている。……絆されそうになってる僕は結構な駄目人間だと思う。
「帝人君が嫌だって言うことはなるべくしないよ」
「なるべく、ですか」
「なるべくね」
 不満げな色を滲ませた声が勝手に出ているけど、それは別にいい。自分のやりたいことをやりたいようにやらない臨也さんなんて臨也さんじゃないし。
「問題はないだろう? 帝人君、好き勝手やってる俺が好きなんだから」
 って、見抜いてるし。解ってるなら一々口に出さないでほしい。
「で、そんなありのままの俺が大好きな帝人君は一体何に対して不機嫌になっていたのかな?」
 僕の頬に手を当てたまま、臨也さんが額を合わせて来た。こつり。軽く骨と骨のぶつかる音。目の前にはいつもと変わらず楽しげに歪められた目と口。腹の底が冷えるようなその笑顔は、それでも僕を惹き付けてやまない。
「本当に、なんでもないんですよ」
「ええー」
「なんでもないんです。臨也さんが臨也さんだから、しょうがないことですから」
「自己完結は良くないよ?」
 合わさったままの額がぐりぐりと押し付けられる。ちょっと痛い、のに、くすぐったい。まるで気を許した友達にでもするような行為。なんだか泣きそうだ。

「それでもいいんです。臨也さんは臨也さんなんですから」
 この人が言った通り、僕はありのままの臨也さんが好きなので、だからいいんだ。薄っぺらい愛しかくれない人だけど、そんなの僕が臨也さんを好きな理由には関係ない。
「臨也さんが臨也さんならいいんです」
 僕だけ愛してとか僕だけ憎んでとかそんな面倒なことは言いませんよ。

作品名:臨帝小ネタ集:11/11追加 作家名:ゆずき