臨帝小ネタ集:11/11追加
電話番号
はい、と渡されたメモ用紙に一行で記された数字。090で始まるそれはどこからどう見ても携帯電話の番号、多分。
「俺の番号。そういえば教えてなかったなって」
「そうですね」
でもこの人は僕の携帯電話の番号を知っている。教えた覚えはない。教えた覚えのない個人情報をなぜか握られてる、なんてことは臨也さん相手には日常茶飯事なので今更気にしない。絆されるってこういうことだろうか。
「その番号には優先的に出るようにしてるからさ、何かあったらどうぞ? 何もなくてもいいけどね」
ティーカップを手に取り紅茶に口をつける臨也さん。うっすら立ち上がる湯気に僅かに瞼を下ろすその横顔が本当にきれいで、今この瞬間を切り取って保存できないのが凄くもったいない。
「そんなこと言って、本当になんでもないことで電話したらどうするんです?」
「例えば?」
「えっと、じゃあベタに声が聞きたい、とか」
「構わないよ。暇だったら付き合ってあげる」
いつだってどこか突き放した感じの、硬質でよく通る声が今は柔らかくて楽しげで、う、なんだこれ。
「嘘です。そんなことしません」
こんな声を耳元で聞くのは精神衛生上絶対よくない。夜に聞いたりしたら寝不足間違いなしだ。
「別にいいのに。そんな気の抜けることやるの帝人君ぐらいだろうし。あとこの番号にかかってくる内容なんて仕事か面倒事かお小言だ」
「……どういう人たちがかけてくるんですこれ」
「んー。新羅、ドタチン、クルリとマイル、波江……こんなものかな、教えてるのは。教えてもないのに知ってるヤツもいるけど。ああ、君専用の番号、とかのほうが良かった? それならすぐに用意できるけど?」
「あ、いえ結構です」
臨也さんの返答に安心している自分がいる。だってもし仮に僕専用、とかだったりしたら、そんなのこの人の中で僕が無価値なものになってしまったらそれごと捨てられておしまいだ。中学高校時代からの友人と、血の繋がった家族と、留守を預けられる秘書。そんな身近で中々切り捨てようのない人間関係の中に僕の居場所を用意してくれたってことだ。この番号を教えてくれた意味は。どういう位置づけかを聞くのはまだまだ勇気がいるから聞かないけど、うれしい。
「何か余計なことを考えてる顔だねぇ」
「そんなことないですよ」
「どうだか」
整った形をした指の背がこつんと額に当たる。鋭い視線が和らいで、ちょっと目じりが下がると、なんだかいつもより幼げに見える。……そんな笑い方をしないで欲しい。勘違いしてしまいそうだ。
「ま、一人でそんな顔して考え込むくらいなら電話してよ」
「なんですかそれ」
「帝人君はもう少し俺の愛を信じてみたら? そうしたら、今なんかすごい楽しいイベントに早変わりだよ」
「信じさせる努力をしてから言ってください」
ぬるくなってきた紅茶をため息と一緒に飲みこんだ。
作品名:臨帝小ネタ集:11/11追加 作家名:ゆずき