黒猫のワルツ
――黒猫のワルツ
闇医者の午後
その日、優雅な午後の一時を僕、岸谷新羅は過ごしていた。
そろそろ愛しの妖精が仕事を終えて帰ってくる。
帰ってきたら一緒に溜まっているHDDでも見よう。
たしか連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』が4話分くらいたまってたはず。
あれ、結構面白いしね。
セルティと見たら更に楽しい。
早く帰ってこないかなぁ、とコーヒーを一口啜った時だった。
ドカアァンッ!!
「ぶっ!?」
玄関からの破壊音に思い切り吹いた。
え、ちょっと何??
セルティがこんなことするはず無いし(やろうと思えば出来ちゃうんだろうけど)、何、トラックでも突っ込んできた??
マンションの最上階にそれはないか・・・。
口元を拭いながら立ち上がると、今度はリビングの扉が吹っ飛んだ。
可哀想に、木製だったのが悪いのかほぼ木っ端微塵で。
こんなことが出来るのって・・・。
「新羅ぁあぁぁっ!!」
「し、静雄・・・。」
やっぱりか。
ていうか、家を壊すなよ・・・来るなとはいわないから。
静雄はどすどす足音を立てながら近づいてくる。
なんか、グラサンで分かりにくいが、何か泣いてる・・・?
・・・・・・・怖っ。
「大変だ、大変なんだっ!!治してやってくれ!!」
「ちょ、落ち着いてよ。何がどう大変で、何を治せばいいんだい。」
頼む、テンパってるのは分かったから接近してこないでくれ。
怖い怖い怖いってば!!
「こいつを治してやってくれ!!」
そういって静雄が眼前に差し出したもの。
それは。
「・・・・・静雄、私は獣医じゃないんだよ?」
一匹の黒猫だった。
黒猫には愛着がある僕だけど、僕は獣医じゃない。
簡単な手当てくらいなら出来るだろうけど、専門的な事は不可能だ。
一応人間専門だし。
獣医につれてくべきだろ。
「違ぇ!!こいつは猫じゃない!!」
「はあ?いや、どう見ても猫でしょ。」
「違うつってんだろ!!そうじゃねぇ!!」
「打ち所が悪くて、猫になった人間のガキだ!!」
「・・・・・・・・・はあ?」
静雄は半泣きで訴えてくる。
意味の分からない内容に僕は首を傾げた。
「静雄、どんなに打ち所が悪くても人間は猫にはならないよ。」
顔をひく付かせながら、僕は訂正する。
ていうか、子供でも知っている事だろう、そんなこと・・・。
寧ろ、打ち所が悪かったのは静雄の方じゃ・・・。
「わかんねえ奴だな、いいから治してやってくれ!!」
パニくりながら静雄は猫を突きつける。
ええ、どうしろっての。
僕がほとほと困っていると、救世主は破壊されたドアからやって来た。
『ただいま。玄関のアレはやっぱり静雄か・・・。』
PDAを掲げてセルティがひょい、と顔を覗かせる。
といっても、彼女に首は無いので、仕草って言うのが正確なんだろうが・・・可愛いからいいんだよ。
「おかえりセルティ。」
セルティに気が付いていない静雄をスルーして僕がそういうと、セルティは静雄に抱えられている黒猫に視線を移す。
そして、はた、と固まる。
「セルティ?」
どうかしたんだろうか、と僕が声をかけると、セルティは高速でPDAに打ち込む。
『帝人!!帝人じゃないか、この猫!!』
「え!?帝人くん!?」
僕とセルティに思い入れのある黒猫・・・それは一時期を共に過ごした猫又の帝人くんだ。
僕は静雄に抱かれている黒猫をまじまじ見詰める。
眼前にあって近すぎたから分からなかったけど、一歩ひいて見ると・・・。
猫の尻尾は2本あった。
こうして、僕たちは思いがけない再会を果たした。
◆後書き◆
新羅のターン。