黒猫のワルツ
――黒猫のワルツ
不思議との遭遇
俺は今、不思議体験真っ只中だった。
世間は狭いが、世の中は広い・・・成る程、よくわかったきがする。
科学では説明つかない事象なんて、案外身近に転がっているものだ。
例えば、怪我させた少年が実は人間ではなく、猫又とかいう猫の妖怪だったり。
例えば、よく話す友人がこれまた人間ではなく、デュラハンという首のない妖精だったり。
例えば、その猫又とデュラハンが旧知の仲だったり。
世間は狭い。
しかし、世の中は広い・・・。
・・・・・・・・なんか、悟ったきがした。
俺が悟っていると、破壊されてないドアから(玄関とリビングのドアは俺が破壊してしまった・・・)新羅と件の猫又が入ってきた。
単なる猫にしか見えないが、そのゆらゆら揺れる尻尾は2本ある。
『帝人!!大丈夫か!?』
セルティがソファから立ち上がって、新羅に抱かれている猫又に駆け寄る。
「心配ないよ、セルティ。妖怪なだけあって頑丈だね、帝人くんは。」
『心配かけてすみません。ちょっと肋骨に罅が入っただけなので、2、3日もあれば完治しますよ。』
猫又はセルティの手に一度擦り寄ると、なんでもないように言った。
しかし、居た堪れないのは俺だ。
事実、俺は加害者で、猫又は被害者だ。
謝って許されるとは思はないが、謝らないとな・・・。
「その・・・。」
『ああ。貴方も、そう気に病むことはないですよ。避けれなかった僕にも非がありますので。』
俺が何か言う前に、猫又は告げる。
本当に気にしていない声だった。
「いや、そういう訳にはいかないだろ。俺が、悪かったんだし・・・。」
ああくそ、そうじゃねえだろ。
どうして、思っていることの半分も言葉が出てこないんだ、俺は。
口下手な訳でもないのに・・・ボキャ貧ってやつだからか・・・?
気まずげな俺をセルティが座らせる。
新羅も猫又を抱いたまま向い側に座る。
『ずるいぞ、新羅!!私も帝人を抱っこしたい!!』
「セルティが帝人くん抱っこしたら、目の保養・・・正に福眼だね!!」
膝をぽんぽん鳴らして猫又を呼ぶセルティと、嬉々として猫又を渡そうとする新羅。
どうしたもんかわからず、座って眺めていた俺に、ふと猫又は視線を寄せる。
なんだ?
俺が猫又を見ていると、猫又は新羅とセルティを交互に見た後、新羅の腕からひらりと逃げる。
「あ、帝人くん?」
『ああ!!ずるい!!』
猫又は、なんと俺の膝に着地したのだ。
え、な、なんでだ??
『すみません、膝借りますね。』
「え、あ、ああ・・・構わねえけど・・・。」
重みなど殆ど感じない猫又を膝に乗せ、俺は(間抜けにも)ぽかんと返事を返す。
猫又は我が物顔で、俺の膝に寝そべる。
『帝人!?わ、私じゃ不満か!!?』
ショックを受けたように高速でPDAをたたくセルティに猫又はちらりと視線をよこし、えらく老成した態度で返す。
『ひとえに広さを選んだといっておきましょう・・・。ま、後はお節介ですかね・・・。』
お節介の下りで新羅に視線をよこした。
新羅はうっかり吹きかけてた。
・・・・汚ねえな。
セルティは小首をかしげて(仕草、だがな)『なんの??』とPDAに打ち込んでたが。
それはさて置き・・・。
「な、なあ。」
『はい?』
「・・・・・・・・・・・・撫でてもいいか?」
笑うことなかれ。
はっきりいうと、俺は小動物とか結構好きだ。
いや、大好きだ。
・・・・・・・・どうせ、似合ってねえけどよ。
いいだろ!?
別に、好きなのは自由だし。
しかし。
俺は動物に懐かれない。
動物だけではなく、小さな子供からも、好かれた試しがねえ。
それは、本能に生きる動物やよりそれに近い子供には、俺の力がなんとなくわかるからなんだろうな。
本能的に危機感を、危険性を理解して、近づかない。
それは、仕方ないんだろう。
でも、傷つかないわけじゃない。
もう、諦め入ってるから、そう悲観してるわけじゃねえけどよ・・・。
だから、こうして、自ら俺に近づく、しかも膝に乗ってきた動物は初めてだ。
新羅のところに行くまで抱いてたのは事実なんだが、あんときゃパニくってて、なんだかわからなかったからな。
改めて動物と触れ合えるかもしれない・・・!!
そういう欲求が言葉になって出てきた。
しかし、やっぱり嫌だろうか。
・・・嫌だよな。
俺、こいつに怪我させたし。
俺が、ひとりマイナス思考に陥りかけていると、猫又は大きなボタンみたいな目をぱちりと瞬かせてから言った。
『ご自由に、どうぞ。』
猫又はゆらりと尻尾を揺らして、やっぱりなんでもないように言った。
この日、初めて俺は、動物と触れ合った。
◆後書き◆
静帝フラグが立ちました。
ソレっぽい要素がようやく出てきました。
すみません、スローペースで。